前年度までに、免疫蛍光染色により、クロマチンファイバー上の特定の部位を蛍光可視化すると共に、抗ヒストン抗体修飾マイクロビーズをクロマチンファイバーに複数個付着させ、マイクロビーズ間の距離の変化を計測することで、クロマチンファイバーの高次構造変化を計測するという手法を構築している(以下では、クロマチンファイバーに付着させた抗体修飾マイクロビーズを「プローブビーズ」と呼ぶ)。 本年度は、この技術を用いたクロマチンファイバーの高次構造変化の計測実験を更に進め、定量的・統計的データ取得を行い、クロマチンファイバーの高次構造変化の動態を明らかにしていくことを中心に取り組んだ。ここでは、クロマチンファイバーの折り畳み度合いの局在性にも注目して研究を進めた。 マイクロ流体デバイス中で一端を固定し、溶液の流れによって靡かせて直線状形態を取らせたクロマチンファイバーに対し、周囲の溶液の塩濃度を上げていくと、プローブビーズ間の距離が徐々に増大していく様子が観察された。このプローブビーズ間の距離の変化を詳細に調べると、各区間の長さは同じ割合で伸張するのではなく、バラツキがある事が明らかとなった。 この高次構造(折り畳み構造)の安定性の不均一な分布については、転写制御因子や転写因子などがゲノムDNA上において不均一に分布しており、局所的な遺伝子発現のon/off制御と相関しているということが予想される。また、この実験で確認されたプローブビーズ間の距離(1~20 マイクロメートル)の塩濃度変化に対する不連続な変化は、遺伝子群のon/off制御機構にも深く関与していることが考えられる。今後は、塩基配列特異的な蛍光マーカーを併用し、ゲノムDNA上のどの配列部分がどの程度の折り畳み構造変化を起こすのかを知ることにより、遺伝子(群)のエピジェネティック制御機構理解が更に深まっていくことが期待される。
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