DNAの塩基配列の変化を伴わない遺伝子の機能変化を解明するエピゲノム研究は、ヒストンの翻訳後修飾やDNAのメチル化などのクロマチン構造の変化を通して、個体の発生や細胞のがん化機構の解明などと密接に関連している。実際に、がんのエピゲノム研究では、特定遺伝子領域における高頻度なメチル化の出現など、がん特異的なクロマチン変異が報告されている。本研究では、シトシンに特異的な蛍光検出反応や修飾アミノ酸を含むタンパク質配列決定法等の新しい分析技術を応用し、メチル化シトシンを定量評価するメチローム解析の新技術、およびヒストン修飾を定性・定量的に解析できるタンパク質配列決定の新技法を開発して、新たながん標的遺伝子の発現を抑制する人工siRNAの創出を目的とした。 まず、メチル化シトシンを含む配列既知の39 bpからなる合成2本鎖DNAを用いて、加水分解したのち、DNA中のシトシンを蛍光反応によって定量できるか否かを調べた。その結果、加水分解反応や蛍光反応の条件を検討したところ、本測定法によって、メチル化シトシンの定量評価に成功した。 次に、正常細胞由来として繊維芽細胞、がん細胞由来としてHeLa細胞からヒストンを抽出し、3種類の酵素(トリプシン、キモトリプシン、プロテイナーゼK)によって分解した。分解ペプチドを蛍光誘導体化反応したのち、HPLC蛍光検出によって分離プロファイルの比較を行ったところ、両細胞由来のヒストンの間で、蛍光ピークの高さや位置の異なる複数のピークが観察された。この結果は、本測定法によって、アセチル化などのヒストン修飾部位が検出できることを示している。 現在、がん組織およびその周辺の正常組織からヒストンやDNAを抽出する方法を検討中であり、今回開発した測定法を用いた、がんおよび正常組織由来のクロマチン変異の解析へと進展させる予定である。
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