研究領域 | 動的クロマチン構造と機能 |
研究課題/領域番号 |
26116526
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
今本 尚子 独立行政法人理化学研究所, 今本細胞核機能研究室, 主任研究員 (20202145)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 核ー細胞質間輸送 / Imoirtinβファミリー / 安定同位体標識 / 定量的質量分析 / 輸送再構築系 / 網羅的基質同定 |
研究実績の概要 |
真核細胞では核と細胞質の間で絶え間ない情報分子の交換がおこなわれている。このプロセスを担う核―細胞質間分子輸送によって、細胞内で発現するタンパク質のおよそ30%もの分子種が核内外を積極的に往来すると考えられている。これら大部分のタンパク質の輸送は、Importinβファミリーと呼ばれる核―細胞質間輸送運搬体分子群によって担われる。 ヒトには20種類以上のImportinβファミリーが存在し、それぞれが異なる輸送基質を核内外に運ぶと考えられる。しかし、各ファミリー分子の基質情報が少ないため、それらが担う個々の輸送経路の機能同定が進んでおらず、核―細胞質間分子輸送による細胞機能制御の仕組みが具体的になっていない。 申請者らは、核―細胞質間輸送の再構築、安定同位体標識(SILAC)、定量的質量分析の3つの手法を組み合わせた新しい網羅的基質同定系を樹立してきた。昨年度は、TransportinとImportinβの輸送基質候補の同定に様々な工夫を加え、同定効率を上げるための輸送反応条件や輸送基質抽出条件の詳細を検討した。また、質量分析装置の機種による定量的質量分析の感度を検討した。その結果、検出した約4000分子種の中から1000分子以上のタンパク質の軽いアミノ酸と重たいアミノ酸比[L(light)/H(heavy)]の定量ができた。ランク付けで、100~200分子が基質候補として同定できることがわかった。本解析系を使った再現実験の有効性も確認した。その上で、Transportin-2、Transportin-SR、Importin-4、RanBP5、Importin-7、Importin-8、Importin-9、Importin-11、Importin-13、Exportin-4輸送運搬体10種が担う核内輸送反応の効率を確認し、それら全ての基質同定解析に向けた準備を完了させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目標は、真核細胞がもつ多数の核―細胞質間輸送経路の全体像を把握することである。そのことで、細胞機能に重要な核―細胞質間輸送反応が生命現象をどのように制御しうるのかといった問題を具体的に理解したいと考えている。目標達成の最初の大きなステップは、これまで明らかにされてこなかった細胞内に存在する多彩なImortinβファミリー運搬体のそれぞれが、どの因子を認識して核内外に運ぶのかといった点を明らかにすることである。昨年度までに、これまで成功の報告がなかったImportinβファミリーのハイスループット基質同定法を独自の方法で確立し、その解析法を用いて、Transportin-2、Transportin-SR、Importin-4、RanBP5、Importin-7、Importin-8、Importin-9、Importin-11、Importin-13、Exportin-4など、ヒト細胞に存在する主要なImportinβファミリーの核内輸送反応全ての基質同定を可能にする道筋をつけることができてきた。当初の研究目的をおおむね達成できていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、昨年度に検討してきた解析の各ステップの詳細条件を踏まえ、全てのImportinβファミリー輸送運搬体が担う核内輸送経路の基質候補の同定をおこなう。基質候補の性質を調べることで、それぞれの運搬体が担う個々の輸送経路にどのような機能的違いがあるかを明らかにしていく。また、何故、これほど多彩な輸送経路が細胞に必要かを理解したい。新しい核内輸送シグナルの同定などは、他分野の研究者にとっても有用な情報になる。全ての運搬体に対する基質候補を同定してその機能解析の情報を踏まえて、Importinβファミリー運搬体のそれぞれが担う生理機能を制御する方法を検討していきたい。核ー細胞質間輸送という細胞内最大の情報交換システムによって細胞機能がどのように制御されるかを示すことで、これまで漠然としか認識されてこなかった細胞機能制御の概念を新たに提唱したい。
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