研究領域 | 生命素子による転写環境とエネルギー代謝のクロストーク制御 |
研究課題/領域番号 |
26116711
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大澤 毅 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任助教 (50567592)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 癌 / ストレス / 脂質 |
研究実績の概要 |
【1】低酸素・低栄養における癌の転写環境の解明 腫瘍微小環境において少なくとも一部の癌細胞は低酸素・低栄養に陥るが、これがヒトの癌においてどのように悪性化の促進に寄与するかは知られていない。我々はヒストン脱メチル化酵素(JMJD1A)が低酸素・低栄養で相乗的に発現誘導されること、悪性のヒト腫瘍検体で発現亢進すること、siRNAによるJMJD1Aの特異的な阻害が血管新生及び腫瘍増殖を抑制することを見出し報告してきた。また、ヒストン脱メチル化酵素(JHDM1D)が栄養飢餓状態で高発現し、in vivoにおいて腫瘍血管新生を制御し腫瘍増殖を抑制することも見出している。これらの知見から癌細胞が低酸素・低栄養状態に陥った際のヒストン修飾変化が転写制御に関与している可能性が高く、その転写環境の解明は癌悪性化の理解に繋がるものと考えられる。本研究では各種ヒストン修飾抗体を用いたChIP-seqを癌細胞を用いて行いアクティブ領域(H3K4me3)、サイレント領域(H3K27me3)や、オープンクロマチン領域(Faire-Seq)などを特定し、低酸素・低栄養で重要なエピゲノム変化と転写因子の同定を試みた。本研究により、低酸素・低栄養で核内受容体がエピゲノム修飾変化を伴い重要な役割を果たす可能性を見出した。
【2】 低酸素、低栄養における転写とエネルギー代謝のクロストーク 申請者は低酸素・低栄養が癌の悪性化に関与することを報告しているが、癌微小環境における転写環境がどのように代謝、さらには悪性化に関与するか不明である。本研究から低酸素・低栄養では脂肪酸の分解が亢進していることを見出し脂質分解系から生存に必要とされるATPを産生していることが13C安定同位体グルタミンの実験からも示唆された。また、低酸素で亢進する解糖系に依存しないことがスーパーコンピュータの計算的シミュレーションにより導いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【1】低酸素・低栄養における癌の転写環境の解明 本研究では各種ヒストン修飾抗体を用いたChIP-seqを癌細胞を用いて、低酸素・低栄養で重要なエピゲノム変化と転写因子の同定を試み、低酸素・低栄養で核内受容体がエピゲノム修飾変化を伴い重要な役割を果たす可能性を見出したことから当初の計画通り研究が進展している。
【2】低酸素、低栄養における転写とエネルギー代謝のクロストーク また、本研究から低酸素・低栄養では脂肪酸の分解が亢進していることを見出し脂質分解系から生存に必要とされるATPを産生し低酸素で亢進する解糖系に依存しないことを実験的手法と計算的シミュレーションにより導くことができた。 当初の計画では13C安定同位体標識グルタミンのみならず脂質分解経路について13C安定同位体標識をした脂肪酸を用いたLCマスで網羅的なトレース実験及びその解析を行う予定であったが、実験は終了しているものの解析が終了していない。今後はさらに、ラベル化した脂質を用いた in vitroの検証実験やin vivo実験も並行して行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、当初の計画通り概ね順調に進展していることから、研究計画の変更や研究を遂行する上での問題点は特にない。 今後の研究の推進方法としては上述の計画で実施できなかった脂質分解経路について13C安定同位体標識をした脂肪酸を用いたLCマスで網羅的なトレース実験及びその解析を行う。 27年度は引き続き、低酸素・低栄養における転写環境とエネルギー代謝の解明を試みる。具体的には、複数の癌細胞株や腫瘍組織を用いて、低酸素・低栄養のエネルギー産生経路について代謝産物の変動を解析する。さらに関与する転写因子・代謝酵素の同定と代謝産物が細胞に与える影響について解析を行い現存する化学療法や血管新生阻害療法との併用における相乗効果の検討を行う予定である。
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