ES/iPS細胞の臨床応用における問題点の一つとして、in vitro分化誘導系において、分化誘導後も未分化細胞が残存することが挙げられる。この残存する未分化細胞は移植後にがん化することが懸念されるため、これらの細胞を除去する様々な方法が報告されている。しかし、これらの方法の多くは、未分化ES細胞と分化細胞の細胞特性の違いに着目しており、残存する未分化細胞そのものの特性については検討がなされてこなかった。我々は、SFEBq法を用いて、マウスES細胞を95%以上の高効率で神経分化させるin vitro分化誘導系においても、未分化細胞が残存することを観察した。また、この残存未分化細胞は、多能性を維持したまま細胞周期を停止した静止状態となっていることを見出した。この静止状態は可逆的であり、血清培地に戻すと増殖・分化能を回復した。DNAマイクロアレイ解析により遺伝子発現プロファイルをES細胞と比較したところ、この静止多能性細胞では、発生関わる転写因子や脂質代謝制御因子が顕著に発現増加していることが分かった。これらの転写因子のうちFoxO3の発現上昇をqPCRと細胞染色で確認した。更に、shRNAと阻害剤を用いた検討により、FoxO3は静止多能性細胞の多能性維持に必要であることが分かった。これらの結果は、残存する未分化細胞を除去する方法として、FoxO3や静止状態制御機構をターゲットとしたアプローチの可能性を提示している。以上の結果を、論文投稿した。
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