公募研究
Nardilysin (NRDc)は、主に細胞質に存在する可溶型の酵素で、明らかなシグナルペプチドを有さないが,未知の経路で細胞外に分泌される。一方、典型的な核移行、核外移行シグナルも有さないが,核と細胞質をシャトリングする。我々は最近NRDcの核内における機能、すなわち、1) NRDcが新規修飾特異的H3(H3K4me2)結合タンパク質であること、2) NCoR/SMRTコリプレッサー複合体と結合すること,3) PGC-1αと結合し、細胞・個体レベルにおける熱産生遺伝子転写制御に関わっていること、4) 同転写制御活性にNRDcの酵素活性が必要であること、を明らかにした。NRDcは既知のメチル化認識ドメインを持たない新しいヒストンコードリーダーであり、NRDc欠損マウスは、低体温、寒冷不耐性、糖代謝異常など多彩な代謝系表現型を呈している。この新規転写制御因子の、標的遺伝子プロモーター上での挙動を明らかにし,個体レベルの代謝制御にいかにつながっているのかを解明する。当該年度には以下の成果を得ることができた。1)抗体作製:クロマチン免疫沈降(ChIP)に使用可能な抗体を得るため、NRDc欠損マウスにリコンビナントNRDcを免疫し、新たに3クローンのモノクローナル抗体を作製した。これまでChIPに用いていたウサギポリクローナル抗体と比較して、より特異度の高い検出が可能になった。2)ChIPシーケンス:野生型マウスの臓器(心臓、肝臓、脳視床下部)からクロマチンを抽出し、1)の抗体を用いてChIPシーケンスを行った。3)NRDc酵素活性の転写調節機能における役割の検討: NRDc欠損マウス由来の線維芽細胞、脂肪前駆細胞の不死化を行い、これらの細胞に野生型あるいは不活性型NRDcを再導入した細胞(NRDc-/-*WT、NRDc-/-*E>A細胞)を作製した。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究目的、1) NRDcの転写スィッチング(抑制-活性化)機能の検討、2) NRDc酵素活性の転写調節機能における役割の検討、3) NRDcの転写調節機能が、個体レベルの代謝調節をいかに制御しているかを明らかにする、を達成するために、以下の進捗を得た。前述したとおり、1)、2)を達成するために必要な抗体および細胞の作製に成功し、最も障壁が高いと考えていたChIPシーケンスの結果も得られたことから、研究は順調に進んでいる。一方、NRDc欠損マウスの糖代謝表現型の解析も順調に進んでおり、特に膵β細胞に特異的に発現している転写因子群とNRDcの機能的連関について、新たな知見が得られている。
1) NRDcの転写スィッチング(抑制-活性化)機能の検討、2) NRDc酵素活性の転写調節機能における役割の検討:当該年度に作製した、NRDc欠損細胞に野生型あるいは不活性型NRDcを再導入した細胞(NRDc-/-*WT、NRDc-/-*E>A細胞)の遺伝子発現解析から、酵素活性依存性あるいは非依存性に発現がレスキューされる標的遺伝子群を抽出する。一方、やはり当該年度に成功したChIPシーケンスのデータを解析して、NRDcがプロモーター、エンハンサー領域に存在する遺伝子群を抽出する。さらにNRDc欠損マウスの臓器レベルの遺伝子発現パターン、表現型における重要性も合わせて検討することで、NRDcの標的遺伝子群を絞り込む。絞り込んだNRDc標的遺伝子群の転写調節領域の特徴(主要転写因子、コアクチベーター、コリプレッサー構成タンパク質の結合、メチル化、アセチル化などヒストン修飾など)を、UCSC genome browserなど既知データベースを用いて検討。最終的に、特定の遺伝子転写調節におけるNRDcおよびNRDcの酵素活性の役割を、NRDc欠損細胞、NRDc-/-*WT、NRDc-/-*E>A細胞を用いて確認する。3) 個体レベルの代謝調節におけるNRDcの転写調節機能の役割の解明:膵β細胞特異的、肝細胞特異的NRDc欠損マウスを用いて、糖代謝制御におけるNRDcの臓器特異的な機能、特に臓器特異的転写因子群との機能的連関を明らかにする。
すべて 2014 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (16件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
PLOS ONE
巻: 9 ページ: e98017
10.1371/journal.pone.0098017
Sci Rep
巻: 4 ページ: 5094
10.1038/srep05094
http://kyoto-u-cardio.jp/kisokenkyu/sentan-bunshi/