公募研究
熱ショック応答は細胞の適応機構であり、熱ショック因子(HSF)によって転写レベルで調節される。哺乳動物細胞のHSF群は、蛋白質フォールディングを助けるHSP等の発現を介して蛋白質ホメオスタシスの維持に重要な役割を担い、老化や蛋白質ミスフォールド病の進行を抑制する。近年、蛋白質ホメオスタシスは代謝ホメオスタシスと密接な関連があることが示唆されてきた。申請者らは、糖・脂質代謝ホメオスタシスを担う転写因子ATF1がHSF1と複合体を形成してHSPの転写を修飾することを見いだした。この分子機構をさらに解明することで、代謝変化が転写環境の構築に働きかける作用を解明した。ATF1はHSF1のDNA結合ドメインと相互作用して、熱ストレスに曝された細胞のHSP70プロモーター上でHSF1転写複合体の構成因子となる。カゼインキナーゼによるATF1-Ser36/41の構成的なリン酸化はHSF1との相互作用に必要であった。このHSF1-ATF1複合体は、クロマチン再構成複合体の構成因子BRG1のリクルートを促すことでHSP70の熱誘導を促進した。一方、熱ストレスやプロテアソーム阻害剤処理、あるいは代謝シグナルを模倣するフォルスコリン処理によりATF1-Ser63のリン酸化が亢進した。その結果、HSF1転写複合体へp300/CBPが引き寄せられ、ストレスからの回復期にHSF1がアセチル化されてHSF1活性の減弱が促進された。ChIP-seq法を用いた網羅的ゲノム解析により、HSF1結合領域の少なくとも30%にATF1も結合していた。さらに、HSF1-ATF1複合体は熱ストレス時や回復期の熱ストレス感受性に大きな効果を示すことも分った。以上の結果は、代謝変化がHSF1転写複合体形成と熱ストレス耐性に重要な役割を担うことを示す。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、糖・脂質代謝ホメオスタシスを担う転写因子ATF1がHSF1と複合体を形成することを糸口として、その分子機構をさらに解明することで、代謝変化が転写環境の構築に働きかける作用を解明した。その成果を論文発表した(Takii et al. Mol. Cell. Biol. 35, 11-25, 2015)。
申請者らは、核酸代謝産物NAD+に依存的なポリADPリボシル化酵素PARP群がHSF1を介してHSPの転写調節を担うことを見いだしている。今後は、この分子機構をさらに解明することで、代謝変化が転写環境の構築に働きかける作用を解明する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 2件) 図書 (1件)
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