公募研究
生命が恒常性を維持するために日々営まれている代謝反応は普遍的である一方で、細胞の状態あるいは外部環境に応じて、新たな代謝定常状態にシフトするダイナミクスを持ち合わせている。これは代謝経路が細胞内シグナル伝達や転写などの細胞内イベントと密接に連動して制御されていることを意味するが、その全貌は謎に包まれている。代謝ネットワークの動作原理理解のためには、様々な摂動条件下での代謝ネットワークの動的挙動を追跡する必要がある。本研究課題では、申請者らが独自に開発した超高感度タンパク質定量法を、特にスループットの面から改良し、高速に全ての代謝酵素を一斉絶対定量ができるようなプラットフォームへと発展させる。さらにこの計測システムおよび各種オミクス計測法を併用して、低酸素や栄養飢餓に対する代謝経路の応答を詳細な時系列データとして取得(トランスオミクス解析)し、得られたデータに基づく数理解析等によって、代謝経路とそれを制御する細胞内ネットワークの接点解明を目指す。平成26年度は、1)MRMメソッドの最適化や内部標準の合成ペプチド化によって現行の5倍以上のスループットを達成すした。さらに、サンプル調製の精度や再現性を向上させるために、ヒト型多軸ロボットを用いて,全サンプル調製工程を自動化した。また、これらの計測システムを用いて計測の予備実験を実施した。
3: やや遅れている
当初の計画では、組み替えタンパク質を用いて代謝酵素定量メソッドをH26年度7月中に完了する予定であったが、使用する質量分析計の不具合によりデータ取得が大幅に遅れ、その結果、実試料を対象とした計測が遅れた。
1)ハイスループットな代謝酵素定量法の確立:合成ペプチドを内部標準として用いるハイスループットな代謝酵素絶対定量法を確立する。実試料での測定を年度はじめに実施する。2)MRMクロマトグラム自動検出アルゴリズムの開発:全細胞消化物試料を対象としたペプチドのMRM計測で得られるクロマトグラムは全般的にノイズが多く、従来の市販の定量解析ソフトではピーク検出の誤判定が頻繁に起こり得る。そこで、精度の高いピーク検出の実現と、人手による目視精査に相当する過程を自動化したアルゴリズムの開発に取り組む。3)各種環境変化における代謝ネットワークの動態計測 異なる定常状態(増殖期、休止期、癌化、老化など)に対して、低酸素や栄養飢餓処理を行い、代謝酵素の発現量やリン酸化状態の応答を計測する。4)多階層データ統合に基づく代謝と周辺事象の関連性探索:代謝経路を構成する酵素群や代謝物などの多階層オミクスデータを統合し、代謝とシグナル伝達や代謝と転写の間に潜む関連性発見を試みる。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
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