公募研究
哺乳類の転写因子Nrf1はタンパク質恒常性維持(Proteostasis)に関わることが明らかにされているが、近年の研究進展により、脂質代謝にも関わることが報告されている。そこで本研究では、Nrf1による脂質代謝調節機構を詳細に解明する目的で、ショウジョウバエのオルソローグ転写因子CncCをモデル系に遺伝学的解析手法を駆使し解析する。本年度は、まずCncCのアミノ末端に存在するNHB1(N-terminal Homology Box 1)ドメインが、CncCの転写因子としての機能を抑制していることを、ショウジョウバエ遺伝学的手法により明らかにした。NHB1ドメインは、哺乳類オルソローグNrf1やNrf3にも存在し、小胞体にアンカーさせることで核移行を阻害し、転写因子としての機能を抑制していることが分かっている。したがって本研究結果は、NHB1ドメインの抑制機能は進化的に保存されており、その機能的重要性を強く示唆する。さらにNHB1ドメインを欠失させた恒常的CncC活性化型であるCncCΔN変異体をショウジョウバエの脂肪組織であるfat bodyに過剰発現させると、脂肪滴の形成ならびにトリグリセリド量が低下することを見出した。この結果は、脂質代謝における生理機能が、CncCとNrf1の間でやはり種間保存されていることを示す。したがってNrf1による脂質代謝機構の詳細を解析するために、ショウジョウバエのCncCモデル系を駆使し解析することはきわめて有用であることが示された。
2: おおむね順調に進展している
哺乳類の転写因子Nrf1による脂質代謝調節機構を解明する目的で、ショウジョウバエのオルソローグ転写因子CncCをモデル系として利用するという本研究の当初の狙いは達成できた。そのことを示唆するように、CncCがもつNHB1ドメインの抑制機能は、Nrf1においても高く保存されていることがわかったため、脂質代謝の制御機構も保存されている可能性を強く示唆し、解析モデル系として有用性が支持された。
ショウジョウバエCncCならびに哺乳類オルソローグNrf1による脂質代謝調節機構の解明において、これら転写因子の活性化機構ならびに活性化シグナル、そして標的遺伝子の同定が、次の重要問題として存在する。これら問題について、今後アプローチしていく。まず活性化機構に関しては、NHB1ドメインを介して小胞体に停留されているCncCあるいはNrf1は、おそらく膜局在形のタンパク質切断酵素により切断されて、小胞体から乖離するものと考えられる。さらに脂質代謝に関わる代謝シグナルがCncCあるいはNrf1の活性化シグナルとして機能し、その代謝シグナルを感知するレセプターが存在し、これもやはり小胞体膜近傍に局在する可能性が高い。このような仮説を立てる参考例としては、ステロール合成を司る転写因子SREBPの制御システムが挙げられる。この分子メカニズムを解明するために、膜タンパク質を単離するプロテオーム解析と一倍体細胞を用いた遺伝学的スクリーニング(Haploid genetic screen)を開始している。これらアプローチから同定された制御因子のさらなる機能解析により、CncCあるいはNrf1による代謝制御を発動させる代謝シグナルを解明する。さらにCncCあるいはNrf1の標的遺伝子をマイクロアレイ解析で同定する。以上の分子機構の解明は、脂質代謝の治療ターゲットとしてNrf1を活用する創薬研究にもきわめて重要な基盤的知見を与えると考える。
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PLOS ONE
巻: 10 ページ: e0118336
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0118336
http://akobayas.wix.com/genetic-code-lab