公募研究
申請者は、これまで、人工多能性幹(iPS)細胞への初期化に関する基礎的研究を通じて、初期化過程で生じる多様な細胞集団の中からiPS細胞形成効率の高い集団(=初期化成功群)と低い集団(=初期化不成功群)を表面マーカーにより早期で選別することに成功した。これにより、これまで困難とされた、初期化過程で将来的にiPS細胞になる可能性の高い細胞に標的を絞った解析が可能となった。マウス胎仔線維芽細胞から4因子Oct4/Sox2/Klf4/cMycにより初期化を誘導すると、表面マーカーSca1、CD34の発現が誘導される。初期化過程早期(5日目あたり)では二重陰性分画から効率的にiPS細胞コロニーが形成されるのに対して、二重陽性分画からはほとんどiPS細胞が形成されない。そこで、各分画における遺伝子発現をマイクロアレイや次世代シーケンスにより網羅的に解析した結果、代謝経路のひとつ酸化的リン酸化を制御する遺伝子群の発現が亢進しており、これらの多くが核内受容体ERRとそのコファクターPGC1による制御を受けていることが判明した。初期化成功群であるSca1/CD34二重陰性群では、他の群と比べてERRとPGC1の発現量が亢進しており、seahorse細胞内代謝測定の結果、酸化的リン酸化と解糖系両方の代謝状態が活性化していた。また、ERRやPGC1をshRNAによりノックダウンすることによりiPS細胞形成効率が著明に低下し、酸化的リン酸化阻害薬を誘導早期に作用させることにおいてもiPS細胞性成功率が有意に低下した。上記のように本研究から、iPS細胞形成には、ATP産生を促す高エネルギー状態が重要であることが示された。興味深いことに、iPS細胞形成過程で酸化的リン酸化の亢進は一過性である一方で、解糖系の亢進は継続する。この代謝シフトの詳細について、ERRにより発現誘導されたTCAサイクルの制御因子のひとつIDHファミリーが重要な働きをしている可能性が見いだされ、現在、解析を継続している。
27年度が最終年度であるため、記入しない。
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Cell Stem Cell
巻: 16 ページ: 547-555
10.1016/j.stem.2015.03.001.
http://kawamura-lab.jp/index.html