研究領域 | 生命素子による転写環境とエネルギー代謝のクロストーク制御 |
研究課題/領域番号 |
26116728
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研究機関 | 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究 |
研究代表者 |
櫛引 俊宏 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, 医学教育部医学科専門課程, 准教授 (30403158)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | オプトジェネティクス / 細胞機能制御 |
研究実績の概要 |
光技術と遺伝子操作技術を組み合わせたオプトジェネティクスにより、光技術を用いた細胞内シグナル伝達の制御が報告されている。分子内にレチナールを光受容体として有するイオンチャネルであるチャネルロドプシンやハロロドプシンを哺乳類神経細胞に発現させ、光照射によってその神経細胞活動制御が報告された後、神経科学分野においてオプトジェネティクスは熾烈な進展と応用が始まっている。本研究1年目では、チャネルロドプシン2をマウス膵beta細胞に発現させ、光照射によるインスリン分泌制御を行った。膵beta細胞からの一般的なインスリン分泌の機序は、グルコースが膵beta細胞で代謝されるとATPが増加し、ATP感受性カリウムチャネルが閉鎖することで細胞膜の電位が上昇し、電位依存性カルシウムチャネルが開いてカルシウムイオンが細胞内に流入しインスリン分泌が惹起される。本研究ではチャネルロドプシン2を膵beta細胞に発現させ、波長470 nm、パルス幅3-6 ns、繰返し周波数1 kHz、50 microJのレーザー光を照射した結果、グルコース不含培地中で膵beta細胞からのインスリン分泌を促進することができた。細胞内へのカルシウムイオン流入をFluo-4蛍光イメージングとパッチクランプ法により確認し、カルモジュリンなど細胞内カルシウム濃度に依存するタンパク質発現増加をリアルタイムPCRにより確認した。さらに、この膵beta細胞を糖尿病モデルマウスに移植し、レーザー光照射と同時にグルコース負荷試験を行った。その結果、チャネルロドプシン2を発現させた膵beta細胞にレーザー光を照射した場合のみ、血糖値低下効果がみられた。これらの結果から、膵beta細胞にチャネルロドプシン2を発現させることにより、グルコース濃度非依存的に膵beta細胞からインスリンの分泌を促すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
神経生理学分野で発展が期待されるオプトジェネティクスであるが、本研究では細胞内シグナル伝達の光制御も可能となり、その適用範囲はほぼ全ての生物種・組織に広がり、様々な疾患や薬剤作用機序の解明にも有用である可能性が示唆された。すでにいくつかの論文や学会発表も行っており、当初の計画以上に研究は進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのPathway解析やエクソンレベルでの発現差解析の結果を踏まえて、今後は幹細胞の増殖や分化に影響する変動転写因子を抽出し、オプトジェネティクスによる転写環境構築のメカニズムを明らかにする。 光を受容したChR2により細胞内に流入したCa2+はセカンドメッセンジャーとして普遍的な機能をもち、多くの転写因子の活性がCa2+依存性に制御されると考えられる。具体的には、幹細胞内のCa2+濃度増加に伴うカルシニューリンの活性化と転写因子NFAT(nuclear factor of activated T cells)の核内移行が毛包幹細胞活動の静穏化や破骨細胞分化に必須であることから、本研究ではiPS細胞や骨髄間葉系幹細胞の増殖・未分化性維持・分化の各過程におけるNFATの役割を解析する。さらに、FosやCREB(cAMP応答要素結合タンパク質)など細胞の増殖や分化に必須の役割をもつ転写因子を標的として解析する。また、CBP/p300(転写装置のインテグレーターとしての機能をもつ転写共役因子)がカルシウムシグナリングの直接の標的であることが最近報告され、Ca2+が細胞内で共通のセカンドメッセンジャーとして利用される意義の一端を、オプトジェネティクスにより明らかにする。 さらに、Gs-coupled beta2-adrenergic receptorまたはGq-coupled alpha1a-adrenergic receptorの光受容GPCRを幹細胞に発現させ、光照射後のアデニル酸シクラーゼ活性化によるcAMP増加やホスホリパーゼC活性化によるIP3やDAG増加が幹細胞の増殖・分化に関わる転写環境に及ぼす影響を平成26年度から引き続いて解析する。
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