公募研究
申請者は、温度センサー・TRPV4が海馬に強く発現していることを見いだした。そして、その生理学的役割を解析した結果、海馬神経細胞において、TRPV4は脳内温度により恒常的に活性化し、静止膜電位を脱分極させることで神経細胞が興奮しやすい土台環境を産み出していることを突き止めた。この解析の中でTRPV4は神経細胞のみならず、アストロサイト・ミクログリアにも発現していることを見いだした(J.Neurosci. 2007、GLIA 2012、BBRC 2013)。そして、アストロサイトTRPV4は脳内に存在するアラキドン酸により活性化し、ギャップ結合とATP放出を介して近傍の他のアストロサイトを興奮させ、それらがグルタミン酸放出を行うことで、シナプス活性を増強していることを明らかにした(JBC 2014)。これらの背景事情に基づき、TRPV4陽性アストロサイトが分泌している新規グリオトランスミッターの同定とその生理作用を明らかにする。さらに、TRPV4陽性アストロサイトと陰性アストロサイトを識別しうる新たな分子マーカーの同定を行い、神経興奮を惹起するFocal spotとして存在するアストロサイト亜種の詳細な性質を明らかにする。TRPV4陽性アストロサイトはATPやグルタミン酸以外の新規グリオトランスミッター候補分子も分泌していることを培養上清のMALDI-TOF MASS解析により明らかにした。その候補分子は4種類のトリペプチドであった。質量分析結果からはアミノ酸組成のみしか判明しないため、それぞれのトリペプチドにアミノ酸配列順序を考慮した候補が存在する。本年度は、この4種類の新規グリオトランスミッター候補トリペプチドの中で、神経興奮を惹起する活性を持つものの同定を試み、この中で2種類にシナプス伝達を増強させる作用があることを見いだした。
3: やや遅れている
群馬大学動物実験施設建て替え工事のため、TRPV4KOマウスの繁殖・維持が希望通りに行えず、実験計画が遅延した。
本年度の研究結果からTRPV4陽性アストロサイトが放出する新規グリオトランスミッター候補分子を培養上清のMALDI-TOF MASS解析と電気生理学解析により明らかにした。TRPV4KOマウスの繁殖後に、WTとTRPV4KOアストロサイトを用いて、TRPV4刺激依存的に放出されるグリオトランスミッターであるのかという検証作業を進める。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Front Cell Neurosci.
巻: 7 ページ: 286
10.3389/fncel.2013.00286.
FASEB J.
巻: 28(5) ページ: 2238-2248
10.1096/fj.13-243436.
J. Biol. Chem.
巻: 289(21) ページ: 14470-80
10.1074/jbc.M114.557132.
http://www.nips.ac.jp/cs/sibaHP/shibasaki.html