研究実績の概要 |
グリア病である神経障害性疼痛では、精神疾患や精神的ストレスとの関連性が指摘されている。また、精神疾患と疼痛との関連性も、臨床上指摘されている(うつを伴う慢性痛、統合失調症の痛覚鈍麻など)。しかし、この「精神と疼痛」の関連性(連関)の分子基盤は未解明である。本研究では、睡眠障害やうつ等の精神疾患に関連性が深い時計システム(体内時計)に注目し、「体内時計によるグリアネットワークの制御」という観点から、この「精神と疼痛」の謎に挑む。体内時計は、24時間周期の生体機能を制御するシステムであり、「入力系・振動体・出力系」の3要素より成立している。睡眠・覚醒のリズムは、脳の視交叉上核にある1万個の神経細胞それぞれが、時計(振動体)として働き、太陽光による光刺激(入力系)により、振動体が同調し、強力な出力系として、睡眠・覚醒等の生理機能を発することが知られている。この振動体を構成している時計の部品が「時計遺伝子(Bmal1, Clock, Period, Cryなど)」である。精神疾患患者のほとんどに睡眠障害が認められることからも、体内時計システムと精神疾患・精神的ストレスとの関連性は深い。我々の解析結果より、睡眠障害等の精神疾患との関連性が深い体内時計システムが破綻したマウスでは、脳・脊髄組織でのアストロサイトの異常な活性化が認められた。同マウスにて行動学的解析を実施した結果、多動といった精神行動異常が観察されただけでなく、神経障害性疼痛モデルを実施した結果、障害時における疼痛(アロディニア)に異常が認められた。これら解析結果より、従来の疼痛研究の対象を変えて障害前のグリアに注目することで、「グリアネットワークの破綻」を、単一個々の精神神経疾患ではなく、「精神と痛み」連関メカニズムにおける共通の中間表現型として捉えることができる。
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