公募研究
本研究では,逃避行動を駆動する神経回路網が良く解明されているゼブラフィッシュをモデル動物として,魚類においてもグリア細胞が神経伝達効率の制御に関わるか否かを明らかにすることを目指している. ゼブラフィッシュのグリア細胞にも,ほ乳類のグリア細胞同様にカルシウムシグナルが存在するかを調べるために,グリア細胞特異的に遺伝子コード型カルシウムセンサーを発現する遺伝子組換えゼブラフィッシュを作成した.ラット培養アストロサイトを用いた予備実験により、細胞膜に標的したGCaMP6f (LCK-GCaMP6f)がグリア細胞の自発的カルシウムシグナルを最も感度良く捕捉することがわかった.このLCK-GCaMP6fをGFAP promoter駆動により発現するゼブラフィッシュの系統を作成し,脳・脊髄のグリア細胞にLCK-GCaMP6fを発現する系統を得た.コンフォーカル顕微鏡を用いてLCK-GCaMP6fを発現した受精後3-7日稚魚脳のin vivoイメージングを行い,視蓋,後脳,脊髄のグリア細胞で自発的なカルシウムシグナルが存在することを確認した.後脳の放射状グリア細胞では,カルシウムシグナルは腹側に伸びる突起の局所で発生することを見いだした.この結果から,魚類のグリア細胞にも,ほ乳類と同様にカルシウムシグナルが存在していることが示された.ゼブラフィッシュの後脳には,聴覚・触覚刺激に応答して速やかな逃避行動を引き起こす神経回路が存在する.この神経回路とグリア細胞逃避行動を誘起する聴覚刺激(1000 Hz)を繰り返し与えたところ,後脳のグリア細胞では自発的カルシウムシグナルとは異なる,より長く広範囲に広がるカルシウムシグナルが観察された.この結果は,魚類でも神経回路の活動に伴ってグリア細胞の活動が誘起されることを示している.
2: おおむね順調に進展している
グリア細胞の存在は線虫,ショウジョウバエ,ゼブラフィッシュ等多くの生物種で知られており,神経細胞の生存支援に加えて神経細胞軸索の正常な伸長,シナプス末端の形態の維持など,重要な役割を担っている.しかしながら,これまで魚類のグリア細胞にカルシウムシグナルが存在するかどうか,また神経回路の活動とグリア細胞の活動がリンクしているかどうかは全く明らかにされていなかった.本研究のこれまでの成果により,上記の疑問に対しての答えが得られたことから,本研究は一定の成果を上げたと判断した.
フランスボルドー大学のNagerl教授との共同研究である超解像顕微鏡によるマウスナー細胞とグリア細胞の構造解析を行う.これまでに得られた成果を論文にまとめる.
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 3件、 招待講演 9件)
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