霊長類のグリアで発現している遺伝子を検討するため、ニホンザルとマーモセットの脳からミクログリアとアストロサイト、神経細胞等を磁気細胞分離法により単離することを試みた。単離された細胞からRNAを抽出し、27年度にRNAseqにより発現遺伝子の探索を行う予定である。グリアで発現していることが既知の遺伝子のうち、BDNFについてはアミノ酸置換を伴う遺伝子変異は対象とした約200サンプルの霊長類では発見されなかった。また、アデノシン受容体ADORA2Aについては名古屋大学医学部との共同研究により遺伝子の半欠損をもつ個体が同定されたが、その子孫にはこの変異が同定されなかった。当該個体はニホンザルバイオリソースの母群個体であるため、侵襲的実験が不可能である。そのため、健康診断時の採血等の機会を生かしながら、iPS細胞の作成等を通じて今後、表現系の検討や繁殖の試みを行う予定である。 また、COMTについてはニホンザルで同定されたアミノ酸置換の効果を、カテコールを基質とした放射性同位元素を用いたアッセイにより検討した。その結果、ニホンザル特異的な変異は酵素活性に影響を与えることがわかったため、さらに表現系に与える影響を検討する。また、ドーパミン、エピネフリン等の生体内の神経伝達物質に与える影響は上記のアッセイ系では不可能であったため、HPLCを用いた検出系を立ち上げ、検討を行った。その結果、ニホンザルの種内変異によってこれらの代謝能力に変化が起こることが示唆された。この結果については、MAOA等の他の代謝経路の影響も検討しながら、グリアに依存する経路がどれだけの影響を生体に与えるかを検討していきたい。
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