研究実績の概要 |
多くの統合失調症遺伝子関連解析の結果を鑑みると、個々の一塩基多型(SNP)のeffect sizeは極めて小さいことが判明している。従って、このような小さいeffect sizeのリスクを同定するためには、生物学的パスウェイを利用してグルーピングを行い、疾患との関連を検討するパスウェイ解析が有効とされ、注目を集めている。本研究では、日本人統合失調症の全ゲノム関連解析(GWAS)データを利用し、Gene Ontology (GO)のtermについて網羅的な解析を行い、グリア関連のパスウェイが関連するかを検討した。サンプル数は、2054名の統合失調症と2923名の正常対象者(すべて日本人)である。 パスウェイで最も有意な関連を示したのは、protein folding(GO6457)であり、P<1x10-4を示した。他方、SNP-wiseの解析でも、有意水準である5x10-8以下の関連を示すSNPを認められなかったが、既報で有意と報告されているMHC領域に関連の傾向を認めた(P-10-7レベル)。本領域では、古典的HLAがあり、免疫の異常、あるいは慢性炎症のリスクとなっている可能性があり、グリアの視点からも興味がもたれる。そのため、HLA-A, C, B, DRB1のアレルについてタイピングを行い(4桁)、関連を検討した(1963名の統合失調症と861名の正常対象者)。その結果、最も有意なものでもP-10-4レベル(OR=0.62)であり、有意とは言えない結果であった。従って、この領域の関連は、non-HLAの可能性が考えられる。 また、グリアに影響を与える可能性のある抗精神病薬(クロザピン)や、気分安定薬(リチウム)の治療反応性の薬理ゲノム研究(PGx)も完了した。こちらも、グリア関連遺伝子とは明確な関連は得られなかった。 本データセットは貴重であり、今後も継続することが望まれる。
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