公募研究
トキソプラズマは寄生虫の一種で、エイズや抗癌剤治療下にある免疫不全患者に致死性の脳症や心筋炎を引き起こす。十分加熱されていない肉(レアのステーキや生ハムでも)から感染する以外に猫のふんから感染することも確認されている。妊婦が感染すると流産、新生児の水頭症など先天性疾患の原因になり、わが国でも報告が増加しているが、トキソプラズマが持つどの病原性因子が局所から全身性に感染拡大に関与するかは全く不明であった。本研究で、①トキソプラズマが宿主細胞内に分泌するGRA6が宿主重要転写因子であるNFAT4を非常に強く活性化する能力を有すること ②GRA6によって活性化されたNFAT4が、強力な免疫細胞遊走能を有するケモカインを感染局所でさらに誘導し、免疫細胞である好中球が感染局所に呼び寄せられ、トキソプラズマがその好中球に感染すること ③好中球をまるで「トロイの木馬」のように利用して、トキソプラズマが局所から全身性に感染拡大していることを明らかにした。本研究では、トキソプラズマが宿主細胞内に分泌する病原性因子GRA6を使用して、宿主免疫機構を「ハイジャック」することにより病原性を最大化するメカニズムを解明したのと同時に、宿主因子NFAT4の活性化がトキソプラズマの病原性発揮に重要であることを示した。この点に関して、転写因子NFAT4を含めNFATの活性化を阻害する薬剤は、すでに別の用途で治療薬として広く世の中で使用されている。従って、トキソプラズマの感染初期において、全身性にトキソプラズマの伝播を阻止する目的でNFAT活性化阻害薬が使用されることにより、トキソプラズマ症の発病を食い止める新規の治療・予防戦略を提供できることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
トキソプラズマが寄生胞に放出する病原性因子GRA6の新規宿主改変機構を同定し、学術誌に報告できたから。
人工的なマトリョーシカ化をはかるために、強制的にEGTさせる遺伝子産物を宿主細胞内にて作らせる。しかしそれが「寄生胞」内の原虫に輸送されるとは限らない。「寄生胞」膜上に存在するタンパク質であれば、宿主細胞質側から供給可能である。実際にROPsを宿主細胞で発現させると自律的にROPsが「寄生胞」に局在し機能することが以前に報告されている。トキソプラズマが「寄生胞」内で増殖するためには、宿主から脂質を取り込まねばならない。その分子機構に関してトキソプラズマのゲノム上にいくつかの脂質トランスポーターが存在することが報告された。その中でABCG107は唯一「寄生胞」内及び膜上に存在することが示され、人工的EGTさせる候補分子としては最適であると考えた。そこでABCG107が原虫内でどのような機能を有するかを調べる目的で、相同組換え法によりABCG107欠損原虫を作製し、哺乳動物細胞内での増殖や脂質の取り込みについて検討する。また通常の遺伝子欠損法で作製できない場合は、テトラサイクリン(Tet)依存的に遺伝子欠損する原虫を作製して解析する。またABCG107を哺乳動物細胞で発現させ、原虫感染時の「寄生胞」に局在化、そのトランスポーターとしての方向性が適切性を共焦点顕微鏡を使用し免疫染色法による細胞生物学的手法で検討する。またABCG107が遺伝子欠損しても表現型がない場合は、「寄生胞」形成に関与する候補分子としてROPsを中心に遺伝子欠損原虫を作製し必須分子を探索する。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)
J Exp Med.
巻: 211 ページ: 2013-2032
J Immunol.
巻: 192 ページ: 3328-3335