生体や環境にやさしいクリーンなエネルギーが必要な時代にあって、無尽蔵に存在する光エネルギーを利用する太陽光発電や、光エネルギーを有機物として蓄積した植物体を燃料や化成品の発酵原料として用いようとするバイオリファイナリーの研究が盛んである。また、光合成細菌や藍藻などの光合成能を元来有する微生物を用いて、光エネルギーから有用物質を生産させる研究が行われている。しかし、これらの微生物は増殖速度が遅いことが物質生産宿主としての実用化における弱点となっており、増殖速度を高める研究が行われている。一方、我々は、増殖速度が速い大腸菌や出芽酵母などの発酵微生物に代謝工学や合成生物工学的な改良を施し、様々な有用物質の生産性を向上させる研究を行っている。しかし、目的生産物の生産性の向上に従い、細胞の増殖や細胞内エネルギーが低下し、結果的に生産性の向上に行き詰ることが多い。また、通常有用物質の発酵では、食用部分や純度の高い原料を使用するが、食料や資源の保護・廃棄物の削減による環境への付加低減等の観点から、近年は、資源作物や非可食資源、未利用資源や廃棄物を原料とする研究が行われている。しかし、これらの発酵原料自体や、微生物が分解しやすくするための前処理反応により、発酵阻害物質が生じることが多い。微生物がこれらの阻害物を細胞外に排出する際には、やはり細胞内エネルギーが必要である。今回我々は、真核生物の細胞内エネルギー生産を司るオルガネラであるミトコンドリアに、光リン酸化能を人工的に賦与することで光駆動ミトコンドリアを創製し、元来の呼吸鎖に加えて光エネルギーを利用可能にする新しいハイブリッド型酵母の開発をおこなった。
|