公募研究
本研究課題では、オルガネラの成立過程およびその後の進化過程において、代謝システムの統合・変遷に伴い分子進化を経たと考えられるミトコンドリア輸送体(MC)を対象に機能解析研究を進めてきた。研究材料として、感染症の原因微生物として重要なマラリア原虫と、オルガネラ研究のモデル生物として重要なシアニディオシゾン、ユニークなオルガネラとしてマイトソームを有する赤痢アメーバ、ならびに出芽酵母を用いて、それぞれのMC分子種の完全同定、輸送基質特異性の解析による機能的役割、および代謝系経路の進化との相関性を明らかにすることを目指し研究を進めた。平成26年度には、前年度までに明らかにしたマラリア原虫のMC機能とカルジオリピンとの関連を掘り下げるために領域内共同研究を進めた。これにより、マラリア原虫の組換え体作製により、カルジオリピン依存性のMCがミトコンドリア膜上に局在するのに対し、カルジオリピン非依存性でS-adenosyl methionine輸送活性を確認したMCが小胞膜上に局在することを示唆する結果を得た。これは、試験管内でのMC機能解析の結果がvivoのタンパク質の局在を予測する上でも極めて有効なことを示す初めての例であると考えており、現在、論文の投稿を準備中である。さらに領域内共同研究の成果として、赤痢アメーバのPAPS輸送体の同定にも成功し、論文投稿の準備がほぼ完了している。また、赤痢アメーバの新規βバレルタンパク質の合成および生化学的解析により、膜に再構成されたβバレルタンパク質が実際にβシートに富む構造を形成することを円二色性スペクトル解析により明らかにして、論文発表をしている。
2: おおむね順調に進展している
ミトコンドリア輸送体(MC)の生化学的機能解析のみならず、領域内共同研究による局在の検証などに展開しており、より広がりのある研究成果の創出につながっている。酵母、マラリア原虫、シニディオシゾンおよび赤痢アメーバについては、計画通り全てのMCタンパク質の合成が完了し、これまでに8種類のMCの基質特異性を決定している。さらに、MCなどαヘリックス型の膜輸送体のみならず、今までに試験管内翻訳系での解析例が殆どなかったβバレル型膜輸送体に関する再構成系の構築にも成功していることより、技術的な進歩もあると考えている。加えて、膜輸送蛋白質を脂質ベシクル(リポソーム)に再構成した形で精製し、円二色性スペクトル測定の条件の至適化に成功し、αヘリックスに富むMCタンパク質、βシートに富むβバレル型タンパク質のそれぞれについて、合成・再構成したタンパク質が良好な二次構造を形成していることを確認できている。これは将来的な本システムの利用に大きな弾みをつける結果であると考えている。
最終年度には、シアニディオシゾンの未解析MCの基質特異性を解析し、代謝とMC分子進化との関係を明らかにする。マラリア原虫および赤痢アメーバのMCタンパク質の輸送基質特異性解析の結果については代謝との関連性を交え、論文として発表を完了させる。赤痢アメーバの新規βバレルタンパク質の構造解析に挑戦するとともに、イオンチャネル活性測定に基づき、輸送基質の予測を実験的に進める。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件)
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