公募研究
葉緑体は、シアノバクテリア(藍藻)の原始真核細胞への共生により生じた。藍藻の持つペプチドグリカン(PG)は進化の過程で葉緑体から消失したと考えられて来たが、我々はPG合成系遺伝子をコケ植物が持つこと、これらの遺伝子を破壊すると葉緑体分裂異常が生じることを見出した。これらのことは、細菌から持ち込まれたPG関連遺伝子が現在でもコケ植物の葉緑体において分裂等の基本的な葉緑体機能にかかわっていることを示唆している。2014年2月、PGの構成要素であるD-アラニル-D-アラニンをプローブに用いた実験系により、今までPGが見いだされていなかったクラミジアでPGが初めて見いだされた。これは、エチニル基を付加したD-アラニル-D-アラニンをPGに取り込ませた後、エチニル基に蛍光物質をクリック反応で結合させる方法である。この方法をヒメツリガネゴケに応用すればPGの存在を確かめられるのではないかと考え、同様の方法で観察したところ、通常の電子顕微鏡観察では観察できない葉緑体型PGの可視化に成功した。これは緑色植物の葉緑体における最初の葉緑体局在型PGの観察例である。その結果、ヒメツリガネゴケでは葉緑体の周り全てにPG層が存在していることを明らかにすることができた。また、ヒメツリガネゴケ葉緑体型PG結合性タンパク質の単離に関しては、ペニシリン結合タンパク質PBPと協調して働く葉緑体型PG結合性タンパク質の単離に向けて、タグを付加したPBPを発現する形質転換ラインの作成や、PG結合ドメインであるS-layer homology (SLH) domainを持つタンパク質(SLHタンパク質)の遺伝子破壊ラインの作成等の解析を進めた。
2: おおむね順調に進展している
結合性タンパク質の単離には未だ至っておらず、その点に関しては少々の遅れが見られるが、本年度についてはコケ植物でinvisible wallであったPGの存在をクリック反応を応用した実験系で明らかにできており、十分な成果を得ることができたと考えている。27年度についても、柱の1つとしてこの実験系を更に進めていきたい。
(1)葉緑体型PGの可視化による解析我々は昨年度ヒメツリガネゴケでは葉緑体の周り全てにPG層が存在していることを明らかにした。本年度は、この方法を用いた解析を進めたい。まずは葉緑体型PGが存在すると予想される灰色植物や車軸藻類を用いて同様の方法で葉緑体型PGの存在様式を明らかにしたい。緑藻類やシロイヌナズナには葉緑体型PGが存在しないと予測できるため、これらを用いたネガティブコントロールについても実験を進める。(2) ヒメツリガネゴケ葉緑体型PG結合性タンパク質の単離と解析大腸菌ではPBPは複合体を作って機能しているため、ヒメツリガネゴケ葉緑体型PBPと協調して働くタンパク質を同定できれば、新規のPG結合性タンパク質を同定できる可能性がある。ヒメツリガネゴケPBP抗体では結合するタンパク質の単離が難しかったため、タグを付加したPBPを発現する形質転換ラインをヒメツリガネゴケで作成した。27年度はこれを完成させ、タグに対する抗体で免疫沈降等を行うことによりPBPと複合体を作るタンパク質を同定し、質量分析法により同定していきたい。また、PG-外膜接着システムであるS-layer homology(SLH)domainを持つタンパク質(SLHタンパク質)を用いた解析も進める。ヒメツリガネゴケゲノムには相同性は低いもののSLHタンパク質が4つ存在していた。それぞれ2つの遺伝子を持つ2タイプにわかれるため、27年度には二重破壊ラインを完成させ、その葉緑体を調べることで形質変異を調べて行きたい。これの相同遺伝子はシロイヌナズナにも3つ存在しており、遺伝子破壊ラインの作成を進めていく予定である。
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PLos One
巻: 10 ページ: e0118804
10.1371/journal.pone.0118804