研究領域 | マトリョーシカ型進化原理 |
研究課題/領域番号 |
26117721
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
新里 尚也 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 助教 (00381252)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 原生動物 / 細胞内共生 / 嫌気 / メタン / 水素 |
研究実績の概要 |
本研究では、メタン生成アーキアと機能未知の真正細菌共生体の2つの共生体を細胞内に保持する、トリミエマ原虫を細胞内共生研究のモデルとすべく、共生体の機能推定やゲノム解析に取り組んでいる。昨年度までの研究により、真正細菌共生体TC1のドラフトゲノムを得ることに成功していることから、今年度はこれらの完全長ゲノム解読に取り組んだ。また、宿主トリミエマのRNA-Seq解析を行い、これらの情報と合わせてTC1共生体の機能推定を試みた。 完全長ゲノム解読を行うことを目的に、先端シーケンサーであるPacBio RSのシーケンス解析に供する、長いゲノムDNA(20kb以上)の抽出に取り組んだ。しかしながら、酵素や化学処理によるゲノム抽出法を中心に検討を行ったものの、これらの手法で長いゲノムDNAを抽出することはできなかった。その後、原因の追究を行った結果、酵素法でゲノムDNAを抽出した後に95℃で行う酵素の熱失活の過程でゲノムDNAがほとんど失われることがわかった。現在、熱失活処理を行わずにゲノムDNAを抽出することで、高分子ゲノムDNAを調製することを試みている。 その一方で、宿主トリミエマのRNA-Seq解析のデータの分析から、トリミエマの細胞内において脂質の合成系に関する酵素がほとんど発現されていないか、もしくは遺伝子自体を持っていない可能性が伺われた。これと対照的に、TC1共生体のゲノム情報には、脂質の合成系路の酵素があるにも関わらず、分解系の酵素遺伝子をほとんど持っていないことがわかっている。この知見を統合して考察した結果、TC1共生体はトリミエマ原虫の細胞内で脂質代謝(合成)に関わっている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はTC1共生体の完全長ゲノム解読に取り組んだが、共生体のゲノムが物理的に非常に不安定であったために、ロングリード用の高分子ゲノムDNAの調製が難航した。そのため、本年度内での完全長ゲノム解読に至らなかった。しかしながら、その後の検討により、高分子ゲノムDNAの調製法が確立されつつあることから、今後の進捗が期待できる。 その一方で、宿主トリミエマのトランスクリプトーム・データとTC1共生体のドラフトゲノムデータを合わせて解析することで、TC1共生体の機能がある程度推定されつつあることは、大きな進捗であり、全体としては、おおむね順調であると判断された。
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今後の研究の推進方策 |
実績概要等でも述べたとおり、TC1共生体の高分子ゲノムDNAの調製に一定の目処がついていることから、早急に解析必要量の調製を行って、ロングリードが可能なPacBio RSによるゲノムシーケンスを実施する。すでに27xの冗長度でドラフトゲノムが解析されていることから、3kb程度のリードを追加することで、scaffoldingが可能になると期待される。 また、宿主トリミエマについては、共生メタン生成菌、TC1共生体のいずれかを欠失した株についてもRNA-Seqのデータが得られており、これらのデータを精査することで、両共生体とトリミエマ原虫の相互作用について、より詳細な知見が得られるものと期待される。
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