真核藻類との共生によって、細菌のゲノムが変化する様子を観察し、真核生物と原核生物の共生関係成立における進化の機構を明らかにすることを目的としている。本研究では窒素固定細菌として、酸素非発生型光合成細菌または好気従属栄養性窒素固定細菌と真核藻類である緑藻の共生系を対象とした。 酸素非発生型光合成細菌としてRhodopseudomonas palustrisの基準株であるATCC BAA-98株(= CGA009株)を利用し、共生系を想定した転写プロファイルの変化をマイクロアレイ解析した。窒素固定条件になるとニトロゲナーゼ転写量は増大するが、中でもV型ニトロゲナーゼの転写が顕著に誘導された。また、炭素源の供給が限定されると、アミノ酸や無機イオンの取り込みに関する遺伝子のほかに、二次代謝に関わる遺伝子の転写に顕著な影響が現れることを見出した。細胞内外への物質の移送が変化すると予想される。 共生培養におけるR. palustrisのゲノム変化を10対のPCRプライマーを用いたMultiplex PCR法で検出を試みたが、約300世代の培養では顕著な変化は見られなかった。一方、土壌由来のR. palustris CGA009株と、緑藻と共存している環境から分離したR. palustris HIR株について、ゲノム比較を行ったところ、窒素固定関連酵素に違いが見られ、CGA009株では、三つのタイプ(V-type、Fe-type、Mo-type)のニトロゲナーゼ遺伝子が検出されるのに対し、HIR株では、このうち、一つまたは二つが確認できなかった。以上から、共生状態の継続により、窒素固定代謝およびその遺伝子に影響が現れる可能性が強く示唆された。
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