公募研究
真核細胞のオルガネラの形成維持には、各種オルガネラへのタンパク質の局在化が必須であり、そのためにタンパク質の新生鎖に局在化規定シグナル配列が存在する。これまでに、複数の局在化シグナル配列が単一のタンパク質分子内に存在し、それらが階層性を持って相互干渉することによってオルガネラ局在化が達成されることを明らかにした。また、ミトコンドリア内膜膜タンパク質のプレ配列が小胞体回避作用を有していることや、ペルオキシソーム膜タンパク質に小胞体局在化シグナルを抑制するモチーフが含まれることを明らかにしてきた。当該年度は、オルガネラ分化を可能にする局在化シグナルの機能分化と作用機構の解明のために、ミトコンドリア膜タンパク質の局在化シグナルに内在する小胞体回避作用および、ペルオキシソーム膜タンパク質の小胞体回避シグナルの作用機構解明を目指した。ペルオキシソーム膜タンパク質の小胞体回避機構について特段の進展が見られ、H26年度はこれに関する研究に焦点をあてた。ペルオキシソーム膜タンパク質であるABCD3分子の、第一膜貫通配列部分が、疎水性度の高い小胞体標的化機能を十分有していること、アミの末端部分の12残基からなる短い配列モチーフ(N12と略)がその標的化を抑えること、N12の小胞体抑制作用は無細胞実験系と培養細胞の生きた細胞の系の両方で確認されること、N12はABCD3以外の小胞体標的化シグナルの作用を抑えること、N12の作用の特異的アミノ酸配列が必須なこと、N12には結合因子が作用して小胞体標的化抑制機能が発揮されていることを実証できた。さらに、綿密な条件検討の結果、化学架橋反応によって結合因子の検出に成功した。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題では、膜タンパク質の細胞内標的化に必要な過程で、これまで注目されてこなかった「小胞体標的化の回避」に着目し、実際に小胞体標的化抑制モチーフを発見した。無細胞系での作用、培養細胞系での作用確認、一般の小胞体標的化シグナル配列の作用抑制、結合因子作用の証明などをもとに、小胞体標的化抑制という側面の重要性を確かなものにできた。H26年度は特に、化学架橋反応を利用した検出系で結合因子の分子量、生化学的分画後の因子の検出が可能になった。この成果は、親和性クロマトグラフ法、酵母ツーハイブリッドスクリーニング法、BioIDによるビオチンラベル法、などの多様な方法論でも達成できなかった後の成果である。化学架橋を行うプローブとして無細胞系で作成したリボソーム新生鎖複合体を使用し、さらにそれを部分精製することによって初めて可能となった点は評価に値すると考える。この検出系を使って、様々なクロマトグラフィー画分での因子の検出が、再現性良く定量的に可能となった。分画を進めて、結合因子と考えられる候補タンパク質の絞込みが可能な段階に到達している。また、N12作用に決定的に重要な5番目のSer残基に重要性を全長のABCD3分子で確認できていなかったが、細胞内分解による複雑さを克服して、全長においてSer5Ala変異体は小胞体に標的化することを実証した。これら2点の成果には特筆すべき進展が含まれていると考える。ミトコンドリア系に関する研究進展が不足していた点は反省すべきと考える。
ペルオキシソームABCD3の小胞体標的化抑制について、クロマトグラフィーと化学架橋アッセイによって追跡し、候補を絞って、電気泳動後の質量分析を実行する。質量分析は最先端施設を有する共同研究先との遂行計画がすでに完了している。その後、因子候補をコードするDNAを取得し、組み換え型の発現、ドミナントネガティブ体の過剰発現効果の解析、プルダウンによる結合解析、ノックダウン効果の解析、さらに精製標品の生化学解析により機能を明らかにする。また、因子遺伝子の種を越えた保存性、臓器による発現変動、膜オルガネラ分化と因子遺伝子獲得との関連を調べることによって、小胞体標的化の抑制機構とその機能分化について考察する。ミトコンドリア系の関しては、ABC輸送体その他、高い疎水性の膜貫通部分をもつミトコンドリアタンパク質のゲノム情報解析を行い、MMT類似配列の存在、ゲノムでの存在位置、本体遺伝子との相互関係を調べ、MMTの進化およびミトコンドリア進化との関連を考察する方向で鋭意進行の予定である。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (9件)
Biochemistry
巻: 53 ページ: 5375-5383
10.1021/bi500649y