真核細胞の細胞内小器官でミトコンドリアおよびペルオキシソーム膜に局在する膜タンパク質の局在制御機構の解明を目指した。これらの小器官は、多くの他の小器官と異なり小胞体とは独立に存在する。起源は、共生細胞に由来すると考えられてきた。これらの存在する膜タンパク質は、もともと細胞に内在した小胞体への標的化系から独立し、この標的化を回避することが、オルガネラの存立に必須である。ミトコンドリアへの局在化には、その前駆体に存在するミトコンドリア指向性配列が、小胞体標的化を抑制する作用をも有していることを見出していた。本研究によって、ペルオキシソームに存在するATP結合カセットをもつ輸送体(ABC輸送体)のD3アイソフォームの先端配列が、小胞体標的化を抑制する特異な作用を有することを発見した。この作用は、500アミノ酸残基からなるD3のわずか12残基以内に存在すること、それは他のなんら関連性の無い分泌タンパク質の小胞体標的化をも抑制することを見出した。その作用には、12残基のうち5位のセリンが必須であり、他の19種のアミノ酸のどれでも代替不可能であった。特異配列がその作用を担うことが明らかになった。この5位のセリンをアラニン残基に置換した変異D3アイソフォーム分子は小胞体に局在化した。さらに、この配列に作用するタンパク質があることを化学架橋実験で実証し、細胞質抽出を分画することで、その因子の精製が可能であることを示した。疎水性の膜貫通配列を持つ膜タンパク質は、その性質ゆえに必然的に小胞体へ導かれることになるが、それを抑制し、独立オルガネラであるペルオキシソームへの局在化を可能にする仕組みの解明にむけた道を開くことができた。
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