公募研究
(1)分化状態によってエネルギー代謝様式が異なることがわかっている、マクロファージの分化実験をおこなった。炎症性マクロファージでは核内に限局した解糖系酵素群のアルギニンメチル化が認められ、解糖系が亢進するのと同時に、ミトコンドリアの断片化が認められた。それに対し、組織修復型マクロファージでは融合した長いミトコンドリアが観察され、TCA回路の代謝産物量が対照群と比較して増加していた。そこで、ミトコンドリア分裂因子Drp1に着目し、発現量を操作することで解糖系の代謝産物量を比較したところ、過剰発現株(断片化)では解糖系の亢進が認められたが、shRNAによる機能阻害株(融合化)では解糖系代謝産物量が軒並み低下することが明らかとなり、ミトコンドリアの形態が解糖系の活性化を規定する要因であることが示された。(2)細胞内のメチオニン代謝活性を低下させるため、メチオニンおよびコリンを欠乏させた培地中を用いたところ、解糖系酵素群のアルギニンメチル化レベルの低下を誘導することができた。興味深いことにメチオニン代謝変動がチューブリンの修飾動態に影響を与えることを見出した。この現象は含硫アミノ酸代謝酵素シスタチオニンβ合成酵素CBSおよびアルギニンメチル化酵素PRMT1のノックダウン株においても同様に観察された。このことから、チューブリンは従来報告されていない、メチオニン代謝を介した翻訳後修飾を受ける可能性が考えられる。また、細胞をCCCP処理し、ミトコンドリアの機能を低下させた場合、チューブリンの修飾が変化すると同時に解糖系酵素群のアルギニンメチル化を活性化することが明らかとなった。これらの実験結果から、ミトコンドリアの活性化状態がチューブリンの修飾動態を変化させ、アルギニンメチル化を介した解糖系を活性化するトリガーとなることが考えられる。これらの詳細な機構については来年度に行なう。
2: おおむね順調に進展している
今年度は主にミトコンドリアの形態制御と解糖系との関連を代謝解析技術を用いて解析した。その結果、がん細胞では細胞質でのメチオニン代謝制御が核内における解糖系酵素の修飾動態に影響し、エネルギー代謝制御に影響することが明らかになった。また、マクロファージ分化系を用いた予備実験ではミトコンドリア形態、チューブリン修飾動態、エネルギー代謝制御のクロストークが観察しやすい良好なモデルであることがわかり、各種解析ツールの構築もほぼ終了した。これらを用いることでオルガネラ間の代謝連携を人為的に制御し、最終年度での研究計画の遂行が支障なく行なえるものと考える。
解糖系酵素のメチル化修飾の有無が細胞全体のエネルギー代謝を制御する上で重要なファクターであることは今年度の研究で明らかになったが、その過程においてチューブリンの修飾動態がメチオニン代謝制御によっても変化し得ることを偶然発見した。来年度は、提案研究に加え、チューブリンの新規修飾の可能性を検討し、複数の修飾間によるクロストークについて詳細な検討を行なうことでオルガネラ間の代謝連携機構の解析を行なう。
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Nitric Oxide
巻: 46 ページ: 102-113
10.1016/j.niox.2014.11.005
実験医学
巻: 32 ページ: 78-85
http://www.gasbiology.com/