研究領域 | 共感性の進化・神経基盤 |
研究課題/領域番号 |
26118503
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
古藤 日子 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (80583997)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 社会性行動 / アリ / オキシトシン |
研究実績の概要 |
本研究はアリの生来持つ社会性行動の神経基盤を分子生物学的に解明し、「共感性」に基づく社会性行動の進化・起源を明らかにすることを目標とする。特に、これまでヒトを含む霊長類やげっ歯類において社会性行動に関与することが明らかとなってきたオキシトシンシグナルのホモログであるイノトシン(Inotocin)が複数種のアリにおいても高度に保存されていることに着目し、アリが生来もつユニークな社会性行動におけるイノトシンシグナルの生理機能を明らかにすることを目指す。 平成26年度はイノトシンシグナル検出系の確立を試みた。第一に、イノトシン、及びイノトシン受容体に対する特異的抗体を作成し、その評価を行った。その結果、これまでにイノトシン受容体を特異的に認識する抗体を作成することに成功した。また、第二に液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS/MS)を用いて労働アリ個体からイノトシンプチドの検出、定量を試みたが、これまでのところ検出されていない。生体内のペプチド濃度はこれまでの先行研究からも非常に低いことが予想され、より高感度の検出系を新たに試みる必要がある。さらに、哺乳類培養細胞系を用いたイノトシンシグナルの活性検出系を立ち上げることに成功した。GPCRであるイノトシン受容体を発現した培養細胞にイノトシンを加えた際、カルシウム試薬によりそのシグナル活性が検出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の実験計画として予定したイノトシンシグナル検出系の確立は上述の研究実績の概要にあるようにおおむね順調に進行している。イノトシン受容体の抗体は今後さらに内在性シグナルの検出及び免疫染色法への応用など課題が残されている。また、検出系に関しては、今後生体サンプルを用いたペプチド定量法を新たに開発することが必要となる。 さらに、平成27年度の実験系に必要となる個体バーコードを用いた行動アッセイシステムの構築も順調に進行しており、試運転に成功している。今後は光量や温度、湿度環境など行動アッセイシステムの最適化を図る必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後はこれまでに確立したイノトシンシグナル活性検出系を用いてイノトシン受容体に対するアゴニスト・アンタゴニストのスクリーニングを行う。アミノ酸配列の相同性から、哺乳類におけるオキシトシン・バソプレシンシグナルのアゴニスト・アンタゴニストを第一の候補とし、前述のカルシウム試薬を用いたGPCR活性の測定によりその効果を評価する。また、新たにRNA干渉法を用いた遺伝子発現操作系の確立を目指す。これらの実験系から得られた、イノトシンシグナルの活性を操作した労働アリを用い、前述の行動アッセイシステムにおいて一個体レベルでの行動解析を行う。着目する行動指標としては労働分化の形成、栄養交換行動、孤立ストレス応答を予定し、これらの行動様式の変化を観察し、イノトシンシグナルの生理機能を明らかにすることを目指す。
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