今年度は計画書に書いた通り,(1)共感性を中心とした道徳性に関わる進化・神経的研究を踏まえ,従来の道徳哲学・倫理学で(所与の能力として)前提されているさまざまな道徳性の基盤を再考する.(2)主に科学哲学の観点から,共感性に関する進化・神経的研究そのものを批判的に検討し直し,その妥当性を評価したり,あるいはより体系だった見通しを与えたりする.という二つの点について研究を遂行した.(1)については近年ケア倫理学などで共感をベースとした道徳哲学の議論が構築されており,それらをサーベイすることにより,問題点や可能性などを考察した.その成果は現在,レビュー論文として公表できるように準備中である.(2)については,共感性のさまざまな研究において,同情(sympathy)と共感(empathy)の間のギャップが埋められていないことを指摘し,このギャップをどう捉えるかについて考察した.この点については,今後共同研究等を通じて考察を進めていく予定である. また以上二点以外に関しても,共感性と関連する内容として,メタ認知の比較心理学的研究,また人間進化全体の科学哲学的考察なども進めることができた.これらについては,二つの論文と書籍として発表することができた.
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