公募研究
自閉症は、その存在が初めて報告された1940年代当時は稀な疾患と考えられていたが、現在では人口の1.0~2.5%と比較的高い発症率である。自閉症スペクトラム症(ASD)は他者の感情を理解する能力や協調性に障害があり、共感性に欠ける一方で無機質なものには異常な関心を示す、こころの発達障害である。しかし、ASD者は他者に対して共感を示さないのではなく、自分と類似していない定型発達(TD)者に対してのみ共感を示しにくいという可能性も示唆されている。近年様々な研究により、徐々に病態解析が行われ始め、脳の発達障害に原因を見いだそうとする多くの報告があるものの、依然十分な解明が進んでいない。そこで本研究では、ASD者を主な対象とし、共感性の神経分子基盤がTD者とは異なるという仮説のもと、共感に伴う脳機能変化を画像で可視化し、神経伝達や脳内ネットワークの詳細を検討し、病態を解明することで共感性の脳局在を探る。本研究課題では、共感性を引き起こす刺激入力と、脳内の神経連絡、統合機序および共感の中枢を特定し、ASD者でどの様にそれが変化しているか、障害の原因はどの部位に存在するかなどの病態解明もあわせて検討を進める。機能的MRI (fMRI)による神経ネットワークの描出や、ポジトロンCT (PET) による神経伝達機能の計測等マルチモーダルな統合的脳機能画像の導入で共感性破綻の神経分子基盤を解明する。研究は大きく分けて(A) MRI研究、(B) PET研究の2つがあり両者を並行して進める。
2: おおむね順調に進展している
今年度は主に、社会性や共感性に障害があるとされる自閉症スペクトラム症(ASD)患者群における共感性に関わる脳機能について、機能的MRI(fMRI)の手法を用いて定型発達(TD)者との差異を評価することで、脳内の変化を客観的に描出する方法の確立を目指した。既に行動実感で報告した課題をfMRIの脳賦活課題に応用し、「ASD者はASD者の行動パターンに共感しやすく、TD者同士の共感と同様の反応を示す」際の脳内の血流変化を観察したところ、TD者同士が共感する際に活性化する脳領域で、ASD群同士の行動認識でも賦活が認められることが明らかとなった。これに対し、TD者のASD的行動に対する反応と、ASD者のTD者に対する反応も、同じ領域で負の賦活となっていることが明らかとなった。また、安静時の脳活動を解析するresting-state network (RSN)をASD群とTD群で比較したところ、社会性や共感性に関わる脳機能がASD群で低下傾向にあることが明らかとなった。こうした知見を学会発表、論文発表することができたことにより、今年度は研究が概ね順調に進展していると判断した。またPET研究において、ノルエピネフリントランスポータ(NET)描出用分子プローブの開発も、基礎検討が予定通り進められている。
これまでの検討で得られた結果を基に、引き続きMRI研究、PET研究を並行して進めていく予定である。特にMRI研究では、RSN解析を更に発展させた解析法により、ASD者独自の脳機能パターンが解明されつつあり、共感性の障害との関わりについても研究を進める予定である。PET研究では、H27年度中にNET分子プローブの有効性を動物実験により確認し、ヒト臨床研究への応用を視野に入れながら基礎データを固めていく予定である。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (23件) (うち招待講演 7件)
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