研究領域 | 共感性の進化・神経基盤 |
研究課題/領域番号 |
26118506
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
片平 健太郎 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (60569218)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 超音波発声 / 計算論モデル / 選択行動 / 情動伝染 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,情動伝染が行動におよぼす影響およびその機能的意義を,動物実験とそこから得られた行動データを説明する計算論モデルの構築により明らかにすることを目指している。初年度はラット単体で経験される情動が行動と学習に及ぼす影響を調べる行動実験を行い,それを説明する計算論モデルを確立することを目標とした。具体的には,ラットの情動の伝達を媒介すると考えられる超音波発声をラットの選択課題中に再生し,その効果を含んだ強化学習モデルの統計的パラメータ推定,モデル選択により超音波発声が行動に及ぼす効果を検討した。選択課題として,二つのレバー間の選択に応じて確率的に報酬が与えられる,確率的選択課題を用いた。この課題では,選んだレバーに割り当てられた確率に応じて報酬の有無が決定されるが,その確率は予告なく変化する。従ってラットはより多くの報酬を得るために絶えず変化するレバーの価値を学習し続ける必要がある。その行動データに対しモデルのパラメータ推定をした結果,ラットの不安,ストレス等の不快な情動を反映すると考えられている22kHzの音を再生した際に,その後に出た報酬の効果が増加することがわかった。この理由としては,22kHzの超音波発声が覚醒度を高め学習を促進したという可能性が考えられる。ただしまだ例数は十分ではなく,実験デザインについても改善の余地があり,モデルやデータの妥当性についてはさらに検討を行う必要がある。しかしながら,ラットにおいて伝達された情動の効果を計算論の立場から検討するための一つの実験系を構築したこと,およびその効果を表現するモデルを構築しその妥当性を確認したことは本年度の成果といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は情動伝染の一つの媒体と考えられる超音波発声の機能を解明するための解析技術と実験系を確立することを一つの目標とした。その基盤は確立できたといえる。一方,超音波発声が情動伝染の媒介となっていることの確証を得るだけの実験的知見までは得ることができなかった。その点を明らかにし,本研究の成果を直接的に情動伝染の機能的意義の理解につなげていくのは次年度の課題といえる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度で調べた超音波発声の効果については実験デザインを改善し,その結果の確証を得ることを目指す。また,ラット間の相互作用がある課題を実施して超音波発声記録を行い情動伝染との関係を調べる。並行して,同じ新学術領域内でラットの情動伝染を直接扱っている共同研究者と連携しながら,初年度で構築したモデルを情動伝染の機能解明につなげていくことを目指す。
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