視床下部のオキシトシンニューロンは情動関連領域である大脳辺縁系などへ投射し、オキシトシンを放出することによって情動に影響を与え、共感や母性といった感情の発現に関与すると考えられている。研究代表者は、そういった感情の発現に付随する体温の上昇や皮膚血流の増加といった自律神経反応の発現にもオキシトシンが関与し、さらに、それが母性や哺育行動に伴う「温かさ」や人間の顔色・表情の微妙な変化を生み出しているという可能性を考えている。そこで本研究では、視床下部のオキシトシンニューロンが情動関連領域である大脳辺縁系だけでなく、自律神経調節に関わる延髄へも軸索を投射し、オキシトシンを放出することによって自律生理反応を惹起するという仮説を検証した。 オキシトシンニューロン特異的に任意のリポーター遺伝子を高発現させるOXY-Tet virusを開発し、ラット視床下部室傍核へウイルスを注入して膜移行型蛍光蛋白質を発現させたところ、オキシトシンニューロン特異的に蛍光蛋白質を発現させることに成功し、延髄への長距離投射軸索の終末まで蛍光蛋白質の強い蛍光シグナルが観察できた。OXY-Tet virusを用いて光感受性カチオンチャネルであるChIEFを視床下部室傍核のオキシトシンニューロンに発現させることにも成功し、延髄縫線核の軸索終末に運ばれたChIEFにin vivoで光照射したところ、褐色脂肪熱産生を惹起した。この結果は、視床下部室傍核から延髄縫線核へのオキシトシン作動性神経伝達が熱産生や体温上昇などの自律生理反応を駆動できることを示すものである。今後、この手法を駆使することで、オキシトシンニューロンから各投射領域への神経投射が担う神経機能を特定することが可能となり、オキシトシンが担う様々な神経機能の発現メカニズムの解明につながることが期待される。
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