研究領域 | 共感性の進化・神経基盤 |
研究課題/領域番号 |
26118509
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
山本 真也 神戸大学, 国際文化学研究科, 准教授 (40585767)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 共感 / 情動 / 他者理解 / 向社会性 / 比較認知科学 / チンパンジー / ボノボ / 進化 |
研究実績の概要 |
飼育下のボノボ・チンパンジーを対象にした観察・実験研究をおこなった。サーモグラフィーを用いた顔面温度の計測という、生理指標を用いた情動の客観的実証研究をスタートさせた。ヒトの情動研究で用いられている実験手法が、チンパンジー・ボノボでも有効なことが明らかになった。今後この手法を応用し、チンパンジー・ボノボにおける情動伝染について詳細に明らかにしたい。 コンゴ民主共和国ワンバ村にて野生ボノボの調査もおこなった。主な観察対象は食物分配と道渡り時の協力行動である。食物分配にかんしては、これまでに独立個体間の分配を約200例観察できている。これはこれまでのどの先行研究よりも豊富なデータ量である。これらの定量的なデータを基に、社会関係を構築するために他者から食物をねだる行動、つまり儀礼的な食物分配をボノボがしている可能性を示した。ボノボは個体間の寛容性が高く、平和な社会を築いている。食べ物の共食を通じた共感が、このような平和社会にどのような貢献をしているのかを実証的に検討している。 これらの研究成果を基に、霊長類の共感性にかんする意見論文を執筆した。これまで、共感の進化はFrans de Waalが提唱したロシアンドールモデルによって説明されることが多かった。このモデルは、原始的なものからヒトに見られる高次の共感性への直線的進化・発達を想定している。しかし、これまでの霊長類研究の知見を基にすると、このような直線的モデルよりも、3要素の組み合わせモデルのほうが適当だと考えられる。つまり、他者との同一化・他者理解・向社会性という3つの要素の組み合わせで、様々な共感関連現象が分類され、適切な文脈で説明されるというモデルである。このモデルによって、共感性の進化が、脳部位の結合との関連などとも絡めてより綿密に議論することが可能になるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サーモカメラを使った顔面温度の計測という新しい手法をチンパンジー・ボノボ研究に導入した。ヒト以外の動物の情動を生理指標用いて計測するというこれまでにない画期的な試みである。ノウハウのない中でスタートさせた研究であるにもかかわらず、順調に軌道に乗せることに成功した。共感性にかんする具体的な成果はまだ出せていないが、今後の発展が大きく見込まれる。 野生ボノボの研究にかんしては、これまで5年間毎年フィールド調査をおこなっており、本年度もデータを蓄積することができた。主な観察対象である食物分配・道渡り協力行動のデータも、十分に集めることができた。比較対象である野生チンパンジーの調査をエボラ出血熱発生のため実施できなかったことが残念だが、これまでに蓄積したデータを分析することで十分比較検討が可能である。今後も継続して分析をおこないたい。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画を変更しなければならないような問題点はなく、これまでの研究方針を継続させる。飼育下チンパンジー・ボノボの研究は、軌道に乗り始めたサーモカメラを用いた実験研究を継続・発展させる。新たに、個体間インタラクションをみる実験研究も計画している。 H27年度も野生ボノボのフィールド調査を計画している。H26年度に実施できなかったギニア共和国ボッソウ村での野生チンパンジー調査は、エボラ出血熱の終息状況をみて判断する。たとえ実施できなかったとしても、これまでに蓄積したデータを分析することで、チンパンジーとボノボの比較は十分に可能であると判断している。今後も継続して分析をおこない、H27年度中の論文発表を目指す。
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