研究領域 | 精神機能の自己制御理解にもとづく思春期の人間形成支援学 |
研究課題/領域番号 |
26118701
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大村 優 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80597659)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 精神薬理学 |
研究実績の概要 |
児童青年期には気分障害の代表的治療薬であるセロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が自殺リスクを増加させるため、中枢セロトニン神経系の発達とSSRIの効果の間に何らかの関係があることが示唆される。そこで、児童青年期にあたると考えられる成熟前のラットもしくはマウス(生後5-7週齢)にSSRI連続投与もしくは光遺伝学によるセロトニン神経系の活性化を行い、自殺のリスク要因の1つとされている衝動的行動の変化を測定することが本年度の目的であった。 成熟前のマウスに対して光遺伝学によるセロトニン神経系活性化を行うことを試みたが、手術後に衝動的行動測定課題の成績が回復するまでの時間が当初の予想以上に長くかかり(約3週間)、回復を待っている間にマウスが成熟週齢に達してしまった。そのためこの研究は断念した。 成熟前のラットにSSRIを連続投与する実験を実施したところ、予想に反して衝動的行動が減少した。また、この効果はSSRI連続投与を中止した後には消失した。次にSSRI投与と同時に5-HT2C受容体拮抗薬を投与する実験を成熟前のラットを用いて実施したところ、衝動的行動の増加が観察された。この効果は成熟後のラットを対象にした実験では観察されなかった。 上記の結果を踏まえ、「5-HT2C受容体に何らかの異常がある場合に限りSSRIによる衝動的行動増加が生じる」との仮説を立て、5-HT2C受容体欠損マウスを用いて仮説の検証を試みた。予備的結果であるが、5-HT2C受容体欠損マウスにおいてSSRI投与による衝動的行動増加傾向が観察された。今後データを追加し、ヒト児童青年期におけるSSRI副作用の機序についての示唆を得たい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の予定は①児童青年期にあたると考えられる成熟前のラットもしくはマウス(生後5-7週齢)にSSRI連続投与もしくは光遺伝学によるセロトニン神経系の活性化を行うこと、および②5-HT2A,2C受容体の脳内発現量と分布について成熟前のラットもしくはマウスを用いて調べること、の2つであった。①は光遺伝学による検討を手術後の回復期間の問題(上記1.参照)により断念したが、SSRI投与実験は完了している。②は未着手であるが、SSRI投与実験をさらに推し進めて5-HT2C受容体欠損マウスを用いた検討を前倒しして着手しているため、差し引きして考えればおおむね順調に進展していると言えるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
光遺伝学による検討を手術後の回復期間の問題(上記1.参照)により断念したが、SSRI投与実験は完了し、5-HT2C受容体欠損マウスを用いた検討を進めて良好な予備的結果を得ているため、今後このデータを追加していく。さらに5-HT2A,2C受容体の脳内mRNA発現量と分布について成熟前-成熟後のマウスを用いて調べていく。特に衝動的行動への関与が示されている内側前頭前皮質、側坐核、腹側海馬における5-HT2A, 2C受容体発現量に注目したい。5-HT2C脳内発現量と分布について成熟前の特徴が明確であった場合には、cre-loxPシステムを用いてその脳部位に限定して5-HT2C受容体をレスキューさせることを予定している。
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