研究実績の概要 |
我々は思春期児童の精神的不調を測定するバイオマーカーとして、唾液のDNAメチル化が有用なのではないかと考え、これまで検討を行ってきた。ゲノムDNA中のどの領域がマーカーとして有用かを検討するために、統合失調症約700例ほどの末梢血由来DNAを用いて、スウェーデンで行われた先行研究(JAMA Psychiatry. 2014)で、DNAメチル化に違いが見られた4か所について、日本人双極性障害患者約450例ほどの末梢血由来DNAを使用して、パイロシークエンシング法を使用してDNAメチル化の測定を行った。その結果、先行研究において統合失調症患者でDNAメチル化の低下が見られたFAM63B, Intergenic regionにおいて、双極性障害患者でもDNAメチル化の低下が認められた。FAM63Bは、神経細胞分化やドパミン遺伝子発現に関連するネットワークに含まれる遺伝子であり、DNAメチル化による遺伝子発現の変化が、神経細胞の機能変化に寄与している可能性がある。またIntergenic regionにおいては、近傍に遺伝子が存在しないため、この領域におけるDNAメチル化の意義は不明であるが、DNAの高次構造の変化を引き起こし、遠位の遺伝子の遺伝子発現を制御している可能性がある。 これらの領域は、単独のCpG 部位におけるメチル化差異は小さいものの再現性が高く、複合して使用した場合、精神疾患検出マーカーとしての用途が広がると考えられる。 今後、メチル化差異が生じている血液細胞種を同定し、またメチル化差異の機能解析を行っていく予定である。
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