研究領域 | 精神機能の自己制御理解にもとづく思春期の人間形成支援学 |
研究課題/領域番号 |
26118708
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
高橋 史 信州大学, 学術研究院教育学系, 准教授 (80608026)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 怒り感情 / 問題解決スキル訓練 / 小中学生 |
研究実績の概要 |
研究者のこれまでの研究成果から、自己制御の形成プロセスにおいては、環境にある多様な刺激への注意が重要であることが明らかになっている。一方、怒り感情喚起時には特に嫌悪刺激のみに対して選択的注意が向けられてしまうことが知られている。そこで、平成26年度は、怒り感情の喚起による自己制御の形成阻害効果について検証した。 公立小学校に在籍する小学6年生71名を対象として、1回45分の問題解決スキル訓練のセッションを計2回実施した。訓練は、Takahashi et al. (under reviewing)が日本人向けに開発した全8回のプログラムのうち、対人行動を行った際の相手の反応(環境からのフィードバック)を多様な観点から観察するトレーニングを行った。訓練中には対人葛藤場面の映像を視聴し、視聴直後の怒り感情をVAS(0~100点)で測定した。また、日常的な怒りやすさの指標である「特性怒り」および対人行動の自己制御の指標である「反応の結果予期」の測定を訓練前後に行った。 訓練の結果、対人葛藤場面視聴後の怒り感情および特性怒りと「反応の結果予期」の改善度との間には有意な関連が見られず、怒り感情による自己制御の形成阻害効果は認められなかった(結果A)。一方、参加児童全体の「特性怒り」および「反応の結果予期」は有意に改善し、全2回の介入で一定の成果が得られることが追認された(結果B)。 以上の結果から、思春期における感情の不安定さは自己制御の形成を必ずしも妨げるものではなく(結果A)、自己制御の形成支援が適切に行われることが思春期の感情制御にも寄与する可能性が示唆された(結果B)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定どおり、介入プログラム前後の時系列データを収集し、怒り感情と介入効果の関連性を検討することができた。仮説とは異なり、怒り感情は重要な介入要素にならないという結論になったものの、怒り感情はむしろ自己制御の形成支援によって変化し得る従属変数であることが明らかになった。本研究が想定する思春期の自己制御の形成支援法の有効性が損なわれることなく、介入の新たな意義が見出されたという点で、本研究計画は順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、学校教育現場において活用される研究知見の提示を目的としたものであり、学校教員からの協力が必要不可欠である。そのため、学校教員対象の研修会等で研究知見および具体的トレーニング方法を紹介することで、研究成果を積極的に発信するとともに、研究参加希望校の募集を行う。また、学校教員および児童生徒を対象とした簡易なストレス調査を各小中学校に提案し、希望する学校にて実施する。これによって、本研究が提案するトレーニング方法に対する潜在的なニーズを把握し、各小中学校責任者と共有することで、介入を必要とする学校および学級に介入を着実に提供していく。 現時点において、研究計画の変更あるいは研究を遂行する上での問題点等は浮上していない。
|