研究実績の概要 |
時間割引機能の指標として、従来から時間割引(時間選好)モデルの割引パラメータが使用されてきた。経済学では「今日の3000円と7日後の3100円」といった質問形式で数問答えさせるやり方が主流であるが、一人当たりの質問数が少なく割引モデルの推定の信頼性が低いという点や、現在の利率といった事前知識などに左右される点、質問紙の順番によって回答がバイアスされる点などの問題点が指摘されていた。そこで私たちはこれまで一人の被験者に、時間遅れを細かく変えて数十試行の選択を行わせる課題を開発し、実施してきた (Schweighofer et al., 2006; Tanaka et al., 2007)。 本研究では、時間割引の指標の中でも、より「自己制御」と直接的にかかわるとされる「時間整合性」に着目し、課題を改良した。提唱されている時間割引モデルには、大きく分けて「指数割引」と「双曲割引」がある。指数割引は、割引の割合がどの時点でも等しいため時間整合的な選択を説明する。一方、双曲割引は将来になるほど割引の割合が小さくなる。つまり、今日と明日の異時点間選択が、1年後と1年と1日の異時点間選択と結果が異なる可能性が出てくる(どちらも間隔は1日にもかかわらず)。このような選択結果は時間非整合的な選択と呼ばれる。 今年度は、この時間非整合的な選択を捕らえられるように、「すぐにもらえる小さい報酬」と「時間がかかる大きい報酬」のどちらかを選ぶと、どちらの報酬も待ち時間が徐々に減っていき、途中で最初に選んだ選択から変更可能な課題に改良をした。さらにこの課題を試験的に、小学生14名、成人80名、うつ傾向の高い大学新入生57名に実施した。小学生では時間非整合的な選択が他グループよりも有意に多い結果が得られた。今後思春期の被験者への適用を予定している。
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