平成27年度の研究では,小児~思春期に顕在化する睡眠覚醒調節の不全が,行動・発達や高次精神機能に及ぼす影響を明らかにし,介入による修復効果を確認するため以下の二つの検討を行った. 1)睡眠障害を有する思春期患者の生理学的検討として,前年度に引き続き睡眠覚醒障害(過眠症,睡眠呼吸障害,不眠,概日リズム睡眠障害等)を伴う児童青年期患者を対象とした.終夜睡眠ポリグラフィ(PSG)にて,睡眠の量的・質的評価を行い,翌日に反復睡眠潜時試験(MSLT)による眠気の客観的評価と,CogState検査による注意認知機能評価を行い,自覚的眠気(エプワース眠気スケール:ESS)も記録した.また一部の症例において,睡眠覚醒障害に対する治療的介入効果の追跡を行った.ESSとMSLT評価は相関せず,睡眠呼吸障害と過眠症の比較では,約半数の課題で過眠症の方が結果が良好で,睡眠呼吸障害では結果のばらつきも多く見られた. 2)睡眠への介入効果の検討として,愛媛県久万高原町の全中学校を対象として,夏季休暇前にワークブックを配布した(回収率 83.8%).1週間を単位とする8つの睡眠教育セッションを設定し,睡眠日誌の記録による睡眠の把握と,3つの目標課題を設けた.取組良好であった群と不十分であった群について,介入直後,介入半年後の睡眠(児童青年期睡眠チェックリスト:CASC)および行動指標(強さと困難さ質問紙:SDQ)を比較し,短期的・中期的効果について検討した.自己評価による取組不十分群では治療前後を通じて有意に平日睡眠時間が短縮していた.介入直後には,入眠・就床前および起床後・日中における改善が確認できたが,半年後には両群間に優位差を認めなかった.介入6ヵ月後には,取組良好群で,SDQの行為面のスコアが有意に低値であった.睡眠衛生への介入効果は従来の報告と同様に短期的にとどまり,精神機能の改善を図るには,継続的・長期的な介入の必要性が示唆された.
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