本研究の進行の上で、重要な課題であったのは、唾液由来DNAのメチル化解析であった。これまで、メチル化解析には血液試料が用いられることが多く、唾液由来DNAからの解析は、まだ殆ど行われておらず、組織間での差異が不明であった。しかし、唾液由来DNAの殆どは、唾液中の白血球に由来することが多いと報告されている為、血液に近いメチル化状態であることが予想された。そこで、オキシトシン受容体遺伝子、アンドロジェン受容体遺伝子のプロモーター領域に注目し、それぞれ2箇所、21箇所のCpG領域のメチル化解析を、血液試料、唾液試料のそれぞれについて行い、両者の比較を行った。また、アンドロジェン受容体遺伝子に関しては、X染色体上にある為、男女別の比較を行った。その結果、少なくとも今回検討した同遺伝子の解析領域については、メチル化率は、血液と唾液での違いは殆どなく、同様なパターンを示した。従って、メチル化解析を行う上で、思春期の子どもからの検体収集において、唾液という簡便な試料を得ることでも血液とほぼ同様なパターンを得られる可能性を確認した。今後、本研究が行う追跡調査の実検体について解析を進めて行きたい。また、メチル化率と精神機能との間をつなぐ中間表現型を計測するための脳機能計測系を確立した。 今回の追跡調査の対象者からの唾液試料の再収集を行った(思春期前12名、思春期中4名)。先の解析法を確立した上で、2年前(第一期期間中に実施した際)の試料との比較を行い、思春期の成熟に伴うメチル化変化について検討したい。
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