研究実績の概要 |
1.神経回路の構造・機能解析のためのウイルスベクターの開発 テンポラルアソシエーションを実現する神経機構を解明するため、標的神経回路の構造・機能解析が可能なウイルスベクターの開発を進めた。これまでの研究で、狂犬病ウイルスベクターの遺伝子発現機構を調べ、ウイルスポリメラーゼ(L蛋白質)とエンベロープタンパク質(G蛋白質)が外来遺伝子の発現量に関与することを明らかにした(Sato et al., 2015)。さらにこの研究成果を基に、一次感染細胞と二次感染細胞を識別することのできるウイルスベクターの作製に成功した(論文準備中)。このウイルスベクターは、記憶を司る神経回路の階層性を解析する上で有用なツールになると期待される。 2.テンポラルアソシエーションに関わる嗅内皮質-CA1路の解剖学的解析 狂犬病ウイルスベクターを用いて、テンポラルアソシエーションに関わる海馬CA1領域への入力経路を解剖学的に調べた。これにより、背側海馬CA1に投射する外側嗅内皮質(Ⅲ層)ニューロンは、時間弁別に関与することが報告されている脳梁膨大後部皮質の前部からの入力を受けることを示した(論文準備中)。本研究で明らかにした脳梁膨大後部皮質-外側嗅内皮質(Ⅲ)-背側CA1回路は、時間弁別を伴った記憶・学習に関わると共に、CA1時間細胞特有の神経活動の形成に寄与している可能性が考えられる。 また、CA1への投射路を調べる過程で、嗅内皮質Ⅲ層はCA1投射細胞が分布するⅢb層と海馬に投射を送らないニューロン群が分布するⅢ層表層(Ⅲa層)にわけられることを発見した。このⅢa層ニューロンの投射先を調べたところ、扁桃体と内側前頭前野に投射を送ると共に、嗅内皮質内で局所回路を形成していることがわかった。今後、この嗅内皮質Ⅲa層ニューロンを調べることで、記憶形成機構の一端を明らかにすることができると期待される。
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