公募研究
脳にとって、過去の時間とは蓄積された記憶である。表出する記憶は一定であっても、その分子的・神経回路的性質は時間とともに変遷する。申請者らはショウジョウバエの嗅覚連合記憶をモデルとした以前の研究で、短期報酬記憶と長期報酬記憶は互いに独立に形成されることを示し、さらに、長期報酬記憶形成を特異的に誘導するドーパミン神経細胞種を同定した。このドーパミン神経細胞は、昆虫の連合記憶中枢であるキノコ体の特定領域に局所的に入力する。申請者らはこの特定領域から出力する神経細胞の形態を観察し、その終末領域が、上記のドーパミン入力神経の樹状突起と同様な領域に投射していることを観察した。この観察結果から申請者らは、この出力神経がドーパミン入力神経に再び入力するというフィードバック回路を形成しているのではないかという仮説に基づき、その形態の詳細な解析を行った。平成26年度は、1. 二重染色法、GRASP法によりこれら二種の神経細胞種の神経突起が非常に近接しておりシナプスを形成している可能性が極めて高いこと、2. 当該出力神経の神経伝達物質、を見出した。先行する生理学的研究などにより、報酬あるいは罰を伝達するドーパミン作動性神経への記憶中枢からのフィードバックの存在が予測されてきたが(prediction error仮説など)、その回路実体は不明な点が多かった。本研究により、長期記憶形成を誘導する報酬系ドーパミン神経細胞種にキノコ体からのフィードバック回路が存在することが示され、今後の機能解析につながることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
申請書にあった計画通りフィードバック回路の解剖学的解析を行った。
現在まで、解剖学的な観点から、長期報酬記憶形成を誘導するドーパミン神経細胞種と、特定のキノコ体出力神経細胞種がフィードバック回路を形成していることを明らかにした。申請者らの以前の研究により、このドーパミン神経細胞の長期記憶形成に対する必要性は示されており、この「報酬フィードバック回路」が長期報酬記憶形成の鍵であるという仮説が成り立つ。今後は計画通り、このフィードバック回路を構成する神経細胞種の記憶形成における機能を行動学的に解析する。これまでの解剖学的知見と総合し、長期記憶形成を誘導する神経回路メカニズムを理解する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 6件)
Proc Natl Acad Sci U S A.
巻: 112(2) ページ: 578-83
10.1073/pnas.1421930112
eLife
巻: 3 ページ: e04580
http://dx.doi.org/10.7554/eLife.04580
巻: 3 ページ: e04577
http://dx.doi.org/10.7554/eLife.04577
巻: 3 ページ: e02395
http://dx.doi.org/10.7554/eLife 3:e02395