公募研究
自己制御の時間的本質を明らかにするために、共時的な自己制御の基礎にある現象的自己の統一性および通時的な自己制御の基礎にある物語論的自己の統合性について研究を行った。まず、第一に、現象的自己の統一性を知覚の観点から明らかにするために、知覚の時間構造の哲学的研究を行った。神経科学や錯覚の心理学などの知見を参照して、哲学的時間論・知覚論を行為者の知覚経験の構造という側面から研究するという新しい着眼点のもとで、知覚のもつ時間的構造を解明した。また、視覚の時間錯覚(ポストディクション)を題材として、知覚経験の時間的構造について検討を行った。とくに、知覚経験はその内容と同じ時間的構造をもつとする見解(延長主義的モデル)の最終的な根拠は、自身の経験がいつ生じたかに関する主観的判断にあることを明らかにした。第二に、物語論的自己の統合性を明らかにするために、通時的な時間経験と自己のあり方を研究した。私たちの意識にはつねに何らかの通時的な時間意識が伴うが、認知心理学の実験によると、幼児の通時的な時間意識は成人に比べて不完全である。不完全な通時的な時間意識には不完全な出来事カテゴリーが伴うという仮説を立てることによって、最も原始的な通時的時間意識から、動物や幼児の通時的時間意識を経て、成人の通時的時間意識に至るまで、通時的時間意識と出来事カテゴリーの生成を統一的かつ連続的に把握することを試みた。また、私たちは心のなかで過去の自分を想起したり、未来の自分を展望したりすることができるが、このような心的時間旅行によって物語論的自己が情動的に構成されることを明らかにした。つまり、物語論的自己は情動的に彩られた自己の通時的な物語として成立し、通時的な自己制御はそのような物語の一貫性を維持するような形で行われるのである。
27年度が最終年度であるため、記入しない。
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大阪大学大学院人間科学研究科紀要
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