公募研究
ある時点で観察される”現在の神経活動”は、“過去の神経活動”と外部刺激の演算によって決定される。そして、回路構造の変化を介して”未来の神経活動”が規定されると考えられる。本研究では、”学習前の過去の神経活動”、”外部刺激の影響を受ける現在の神経活動”、”未来の神経活動に影響を与える可塑性”の関係を明らかにする。特に今年度は、学習後に遅発的に生じる遺伝子発現が、樹状突起スパインの刈込みやニューロン集団の再活性化に寄与し、長期記憶を安定化させることを明らかにした。最初期遺伝子Arcは、学習直後に発現が誘導され、記憶の固定化に寄与することが知られている。我々は、文脈依存的恐怖条件づけの後に海馬のArc発現を時間を追って解析することで、Arcが条件づけ直後だけでなく、12時間後にも上昇することを明らかにした。この遅発的なArc発現を抑制すると、2日間の記憶は保持されたままだったが、7日後の記憶は障害された。また、学習に伴って生じる樹状突起スパインの刈込みもArc発現の抑制によって障害された。樹状突起スパインの刈込みは、不要な回路の除去によって、必要な回路の選択的な安定化に結びつくと考えられる。そこで、条件づけ時に活性化したニューロン集団が、想起時にも再活性化するかを調べた。コントロール群は再活性化が認められたが、Arc抑制群では再活性化が生じなかった。また。以上の結果から、遅発的なArc発現は樹状突起スパインの刈込みやニューロン集団の安定的な不活性化を通じて、記憶の長期的な固定化に寄与すると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
過去の活動した神経細胞を標識するマウスの実験系を確立し、学習と神経細胞の再活性化の関係を明らかにした。
過去の他者の行動は、その後の自分の神経活動や行動に影響を与える。本研究では、他者の行動が自分の神経活動、その後の行動に与える影響を調べる。過去の活動した神経細胞を標識するマウスを用いて、他者の学習中に活動したニューロンを、あるいは、自分が学習している際に活動したニューロンを標識する。そして、他者の学習中に活動したニューロンと自分の学習時に活動したニューロンの関係を明らかにする。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (16件)
Current Biology
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