今年度に予定していた離散運動錯視の特性の心理物理学解析は昨年度中に概ね完了した.その結果,この錯視には4-5 Hzの周期で動作するメカニズムが深く関わっており,それが主観的な時間の連続性を支える大きな要因であるとの推察を得た.今年度は,心理物理学実験の一部について新たな方法に基づくデータを追加し結論の正しさを確認するとともに,大規模な脳波計測実験に基づき錯視の生理学的基礎を検討した.18チャンネル脳波計(Neuroscan SynAmp2 System,東京大学進化認知科学センター共用施設) を用いて,のべ25人の健常者から,離散運動錯視を引き起こす刺激と引き起こさない刺激をそれぞれ観察中の脳波を計測し,錯覚の生起と関連する成分を様々なやり方で分析した.試行錯誤の結果,錯覚が生起するときには後頭頂葉における4-8 Hzの帯域における振動成分が有意に低減することが示された.同じ分析を,視覚刺激がステップ状に現れ消失する条件とガウス状に緩やかに提示される条件で行ない,類似の結果を得た.この結果は,後頭頂葉に現れる4-8 Hz付近のいわゆるシータが,知覚の時間的連続性の成立に関与している可能性を示唆している.これらの結果を,前年までの心理物理学実験の結果と統合する形で一つの論文にまとめることに決定し,投稿を準備した.また,本研究の成果をInternational Symposium on the Science of Mental Timeおよび第16回脳と心メカニズム(統合脳WS)において講演(招待)した. 上記とは別に,昨年度に採択された視覚コントラスト感度と運動座標系に関する研究成果を国際会議VSSで発表した.また,以前より進めていた視野闘争における座標系の役割に関する論文をJ. Visionに公刊した.
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