研究領域 | こころの時間学 ―現在・過去・未来の起源を求めて― |
研究課題/領域番号 |
26119509
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡ノ谷 一夫 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (30211121)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 後部帯状回 / 時間遅れニューロン / 痕跡条件づけ / GRS / ヘッブ学習 / カスケード |
研究実績の概要 |
ラットの後部帯状回脳梁膨大部(GRS)には刺激後数秒の遅れをもって発火するニューロンがクラスターをなしている部分がある。我々はこの部分がカスケード接続によって任意の時間遅れを形成することができるという仮説を証明したい。26年度には、GRSが痕跡条件づけに機能するかどうか、また、GRSを中心とした神経回路が実際に遅れカスケードを形成しうるのかを解明した。 条件刺激が提示された15秒後に電気ショックを与える痕跡条件づけを行った結果、統制群のラットでは条件づけが成立したのに対し、GRSを損傷した群ではこれが成立しなかった。また、痕跡条件づけ成立後のラットのGRSから神経活動を記録すると、CS提示感覚に同期した発火パターンの増減があり、これがCS-CS間隔を符号化している可能性があることがわかった。 また、脳スライスを使って、電気刺激と電位感受性色素を用いた研究により、CSは視床前核よりGRS1層に入力し、さらに2層に伝達されることがわかった。2・3層では秒単位の遅れをつくるニューロン群が横方向への伝達を行い、任意の時間遅れが形成される。これらがさらに5層を経て6層に投射される。CSはまた海馬体に入力され、USが想起される。CSはGRSにより遅れを伴って6層に到着するため、海馬体からのUSは6層で同じニューロンに到達し、ここでヘッブ学習が成立し、痕跡条件づけが可能になることが示唆される。また、6層からは前頭葉に投射があり、これにより回避行動が生起すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
後部帯状回GRSの時間干渉機能とそれを可能にする時間遅れヘッブ学習回路について、その概要を解明することができた。これらは申請書で記載した進行状況に合致している。以上より、本研究の達成度はおおむね順調であると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
27年度は、GRSのスライス標本を用いた電気生理実験および光学測定実験を行う。電気生理実験では、パッチクランプ記録により、GRS内のシナプス伝達の可塑的変化を探索する。光学測定実験では、電位感受性色素を用いた信号伝達の時空間ダイナミクス解析、Caイメージングなどを行い、GRS内のメゾスコピックな回路網を解析する。さらに最初期遺伝子(c-fos, arc)発現により、時間弁別課題遂行中のLS細胞クラスターの活動を可視化し、その3次元活動パターンを可視化する。 これと平行して行動実験も進める。オペラント条件づけによる時間保持課題を行う。ラットが15秒以上レバーを保持すれば、レバーを離した際に餌強化を与える。この際のGRS神経細胞の記録を行う。またGRSの薬理操作が時間弁別に及ぼす影響を解明する。 以上の研究により、GRSが時間緩衝を行う仕組みを分子から行動レベルにわたって解明し、動物における時間符号化の一側面を明らかにする。
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