本研究は、申請者がこれまで構築してきた小脳モデルの中核である、抑制性の再帰ネットワークによる細胞集団の発火パターンの遷移を利用した時間経過表現の神経メカニズムに焦点をあて、精緻な運動制御に必要な数十ミリ秒から一秒未満のタイミング制御を担っている小脳と、数十秒程度までの時間認知を担っていると考えられている大脳基底核のモデルを構築し、それらがどのように協調あるいは役割分担して長時間の時間認知を精度良く実現しているのかを理論的に検討する。
当該年度は、まず大脳基底核の数理モデルを構築した。このモデルは基底核を構成する複数の神経核からなり、ニューロンは発火頻度モデルとして構成されている。皮質からの単発の条件刺激と、ドーパミン入力によって表現されると仮定した無条件刺激におり、痕跡条件付けができるモデルとなっている。条件刺激が入ると基底核--皮質ループによって持続的な活動が得られる。GPe--STN間のリカレントネットワークを利用したレザボア計算により、遅延期間中の時間経過が表現でき、さらに無条件刺激で引き起こされる学習によって条件反応を生成できた。また、条件付けにおいては、条件反応を表す神経活動は条件刺激呈示開始からゆっくり漸増することを確認した。
次に、この大脳基底核モデルとこれまで構築してきた小脳モデルを大脳皮質を介して接続し、同様に痕跡条件付けのシミュレーションを行った。小脳核の出力は基底核のそれとは異なり、無条件刺激呈示のタイミングの前後でのみ生成された。この挙動は、田中が提唱しているリレー仮説と定性的に一致しており、リレー仮説を支持するモデルとなっている。
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