研究領域 | こころの時間学 ―現在・過去・未来の起源を求めて― |
研究課題/領域番号 |
26119512
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
月浦 崇 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 准教授 (30344112)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 時間 / 記憶 / fMRI / 神経心理学 / 前頭葉 |
研究実績の概要 |
本研究では,ヒト記憶における時間感覚とその障害が,どのような脳内機序によって担われているのかについて,健常者を対象とした機能的磁気共鳴画像(fMRI)法と,脳損傷患者を対象とした神経心理学的方法から解明することを目的とする. 平成26年度の研究では,第一に,記憶における「情動性」や「明瞭性」,「繰り返し性」などの要因が,現在から過去へと遡る時間の要因によってどのように変化するのかについて,健常高齢者を対象とした研究を行った.その結果,「情動性」や「明瞭性」が高い記憶は現在に近いほど良く想起できるが,そのような時間依存的な変化は「情動性」や「明瞭性」が低い記憶では認められなかった.しかし,記憶の想起における「繰り返し性」と時間的距離の相互作用は有意ではなかった.この結果をもとに,次年度は健常高齢者に対するfMRI研究を実施する予定である.第二に,脳損傷による健忘症患者を対象として,作話症状の重症度がどのような脳機能の障害と関連しているのかを検証した.その結果,作話症状が重度な健忘症患者では,作話症状が軽度な健忘症患者や健常統制群と比較して,有意に時間の見当識や注意,言語性記憶が障害されていることが認められた.第三に,時間知覚や記憶における出来事の順番の処理過程において,どのような神経心理学的要因が重要なのかを,健常若年成人と健常高齢者において検証した.その結果,前頭葉機能を反映する語流暢性課題の成績の個人差と時間知覚の成績が若年者と高齢者の両方で関係していること,作業記憶に関連する課題成績の個人差と記憶における時間順序課題の成績が高齢者において関係していることが示された.次年度は同様の課題を前頭葉損傷患者を対象として行うことで,時間知覚と記憶における時間順序の処理における脳内機序を明らかにする予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画は,健常若年成人と健常高齢者を対象としたfMRI研究と,脳損傷患者を対象とした神経心理学的研究から,ヒト記憶における時間情報の処理の脳内基盤とその障害機序を明らかにすることを目的としている.現在までの研究では,fMRI研究は多少の計画の変更はあったものの予備的検討は終了し,次年度から健常高齢者を対象としたfMRi研究を開始することになっており,脳損傷患者を対象とした研究では,作話症状の神経心理学的基盤に関する検証はほぼ論文も完成しており,時間知覚と記憶における時間処理の検証についても,健常者への検証を経て,次年度から前頭葉損傷患者への検証を行うことになっている.以上のことより,おおむね順調に進展していると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究としては,健常者を対象としたfMRI研究については予定通りに開始したうえで,早期にデータの習得を終え,データの解析を進めていきたいと考えている.作話に関する検討では,ほぼ論文も完成しているため,最終的なチェックや英文校正を経た後に,早期に投稿を行いたいと考えている.また,時間知覚や記憶における時間処理の検証に関しては,前頭葉損傷患者に対する実験を早期に開始しつつ,健常高齢者に対する検証については学会発表を行い,論文の準備も進めていきたいと考えている.
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