本研究では、1群のチンパンジーに食物と交換可能な「トークン」(代用貨幣)を導入するとともに、さまざまなトークン使用場面を設定することによって、チンパンジーの多様なトークン使用行動を引き出し、そこでみられる、トークンを使用する場所へ運搬する際に発揮される「こころの空間」にかかわる能力、そして、将来に備えてトークンを蓄えることを可能にする「こころの時間」にかかわる能力の検証を通じて、彼らの未来予測能力 を「社会実験」として検討してきた。 平成27年度は、平成26年度に実施した個体ベースのトークンを使用した選択実験をさらに進展させた。実験室場面において、トークンを消費する選択肢(トークンを投入すると報酬と交換される)と、トークン投入によって課題がスタートし、正解するとトークンが増えて戻ってくる(投資)選択肢を用意し、チンパンジーたちが、トークンを「増やす」という未来予測型の行動を示すかについて検討を行った。その結果、実験に参加したすべてのチンパンジーにおいて投資選択肢では消費選択肢を選好する傾向が強く示された。この結果は、位置偏好、報酬量の差に対する感受性の低さ、さらには、投資選択肢の方で必然的に生起する遅延時間、などに起因するものではなく、チンパンジーの「衝動性」ないしは未来予測能力の制約に起因する可能性が示唆された。 この1個体場面での研究に並行して、チンパンジー集団に対してトークン使用を行わせるための研究計画、装置開発についても進めた。 なお、これらの成果は、黒澤圭貴(研究協力者)、川上文人(連携研究者)とともに実施し、国内の学会やシンポジウム等で発表した。
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