研究領域 | こころの時間学 ―現在・過去・未来の起源を求めて― |
研究課題/領域番号 |
26119514
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤田 和生 京都大学, 文学研究科, 教授 (80183101)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 心的時間旅行 / 進化 / エピソード記憶 / 内省 / 意識 |
研究実績の概要 |
現在の環境刺激から離れ、こころの中に過去や未来を描く働きは、ヒトだけが持つ特権なのだろうか。本課題の目的は、これを多様な系統の動物で比較検討することを通じて明らかにすることである。平成26年度には以下のような成果を挙げた。1)過去を描く能力として、一度きりの経験から偶発的に記憶した情報を取り出して、自身の適応的な採餌活動に利用できるかを、シリアンハムスター、デグー、ネコを対象に検討した。具体的には複数箇所の餌場を順次訪問させ、そのうちの1箇所でのみ採餌を許容した。その後遅延時間を置いてから、再度餌場を自由に訪問させた。ハムスターとデグーでは明瞭な結果が得られなかったが、ネコでは、イヌ同様に、食べることのできなかった餌場を優先的に訪問することがわかった。これは単回の偶発的経験を想起した結果と考えられる。また同様の実験を、ウマを対象にして開始した。2)未来を描く能力として、ハトを対象に、展望的記憶の検討を開始した。基礎課題として線分長の長短分類課題を遂行させ、一定試行回数の後に、より簡単に報酬の得られる課題を挿入した。長短分類課題の成績が、挿入課題の予期によって影響を受けるか否かを検討したところ、6羽中3羽の個体では、挿入課題が近づくと、長短分類課題の成績が悪化した。これは展望的記憶からの予測に一致するが、残る個体では現在のところそうした傾向は見られていない。手続きを修正して、さらに検討する必要がある。これらの実験に関して、計画班や公募班との共同研究を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
実績概要欄に記載の通り、特に過去を描く能力については、当初予定していた以上の多様な動物種を対象に実験資料を得ることができた。未来を描く能力については、さらに手法的洗練が必要だと思われるが、他班との共同研究も含め、より広い種比較に向けて、見通しは非常に明るい。
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今後の研究の推進方策 |
進行中の実験を、必要に応じて実験手続きに修正を加えて完了させる。未来を描く能力の検討により力を注ぎたい。今年度は新たにオカメインコとニワトリを被験体に加える予定である。また計画班との共同研究として、チンパンジーとボノボを対象に加える。新たな検討課題としては、偶発的記憶からの複合情報の取り出し、及び偶発性と情報統合性を備えた完全な形のエピソード記憶、衝動的行動の予見的制御、将来を見越したトークンの予期的選択、等について検討を開始したい。成果が得られたものから着実に論文化し国際誌に投稿する。7月の日本霊長類学会、8月のInternational Ethological Conference、9月の動物心理学会大会、日本心理学会大会等で、関連した研究発表をおこなう。
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