研究領域 | こころの時間学 ―現在・過去・未来の起源を求めて― |
研究課題/領域番号 |
26119516
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
水原 啓暁 京都大学, 情報学研究科, 講師 (30392137)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 認知神経科学 / コミュニケーション / 音声知覚 / 神経振動子 / 神経回路 / 脳機能イメージング / 身体性 / 引き込み |
研究実績の概要 |
周期的脳活動の一つである脳波の神経振動子協調が,脳内の動的な神経ネットワーク形成を実現していることが指摘されている.この神経振動子協調は,脳内の情報伝達のみに留まらず,脳と脳の間の情報伝達,つまりコミュニケーションにおいても重要な戦略であるとして,近年,注目を集め始めている.例えば音声コミュニケーションにおいては,話者の発話のリズムと,音声聴取中の聞き手の脳内の神経振動子が位相協調することが報告されている.さらに,音声提示前の脳波位相によって聴取成績が変化することも示されており,この脳波位相が話者の音声発話タイミングの予測に関与しているものと考えられる.つまり,音声コミュニケーションにおいて適切な時間窓を実現する脳内メカニズムが,神経振動子の音声提示前後における位相協調であると考えられる.そこで本申請課題では,ヒトを対象とした脳波計測,および脳波と機能的MRIの同時計測を実施することで,脳波の位相に依存して音声聴取成績が変化することを示すとともに,そのときの皮質回路の音声提示前後の変化を検証することを目的としている. 平成26年度においては,音声聴取課題遂行中の脳波計測を実施することで,音声提示前後の神経ネットワークの切り替えに関与している脳波成分を同定した.従来の研究においては,音の聴取前の低い周波数の脳波活動の位相によって,その聴取成績が変化することが報告されている.また,音声聴取は複数の周波数帯の音声成分に対応する脳波活動の神経振動子協調により実現されていることが報告されている.つまり音声聴取時において,複数の音声成分に対応する神経振動子活動が位相協調することで,音声聴取に必要な神経ネットワークを動的に形成していることが考えられる.そこで本研究課題では,音声聴取前の脳波成分,および聴取時の脳内の神経振動子による神経ネットワークの動的形成に着目して音声聴取課題を用いた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では,平成26年度において音声聴取課題遂行中の脳波計測を実施することで,音声提示前後の神経ネットワークの切り替えに関与している脳波成分を同定することを計画していた.現在までに音声聴取課題遂行中の脳波計測を完了するとともに,脳波解析においては,位相に依存して変化する音声聴取成績を示す脳波成分を同定している. 以上のことから,おおむね当初の予定通り計画が進んでいると評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度には,前年度までに同定した脳波活動に関連した神経ネットワークを同定するための脳波と機能的MRIの同時計測を実施する.前年度までに実施した頭皮脳波計測では,頭皮上での活動を同定するのみであり,どのような神経ネットワークによる脳波位相を反映しているかは不明である.そこで,脳波と機能的MRIを用いることで,刺激提示前後の脳波位相関係に依存して音声聴取成績の変化を示す脳波成分に関連した皮質ネットワークを同定する. 得られた脳波データを用いて,脳波計測により同定した脳波成分のパワーの時間変化に相関した皮質部位を同定する.ただし,頭皮上で観察される脳波パワーの変化は単に一か所の皮質部位の局所場電位の増減を意味しているわけではない.脳波解析において脳波電極の平均場を参照電位とした場合には,脳波パワーの増加は神経ネットワークの中に含まれる複数のノード(皮質)の位相同期を意味することになる.したがって,脳波パワーの時間変化に相関する部位を機能的MRI解析により同定することで,この脳波パワーを生成している神経ネットワークを同定する.
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