研究領域 | こころの時間学 ―現在・過去・未来の起源を求めて― |
研究課題/領域番号 |
26119518
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
石井 敬子 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (10344532)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 言語 / 文化 / 時間割引 / 未来表現 |
研究実績の概要 |
一般的に、人は現在の利益と未来の利益との間では非常に近視眼的な時間選好をしやすく、未来の効用をつい割り引いてしまう。このような時間割引の現象は、人だけでなく他の生物種でも見られる一方、文脈や個人差による影響、さらにはその文化差も示唆されており、東アジアにおける人々と比較し、北米における人々の割引率は高い。しかしながら、なぜこのような文化差が生じるのかには熟考の余地がある。本年度の研究では、未来表現と現在表現の区別の有無と1人称の数といった言語の特徴に注目し、それらが影響を与えるのであれば、未来・現在表現の区別がない言語、および1人称の数が複数あり、行為を理解する際にプロセスに注目しやすいような言語において時間割引の程度が小さいのではないかという点を検討した。参加者は、Han & Takahashi (2012) によって作成された時間割引を測定するための質問紙に回答した。具体的には、7つの遅延期間のそれぞれに対し、利得の大きさが操作された40の選択肢のうち好ましいほうを1つ選ぶよう求められた。これに加え、行動のゴールもしくはプロセスを重視する程度を測る質問紙、自己一貫性を測る質問紙、主観的な社会経済的地位を測る質問紙、および年齢、性別、引っ越し回数などのデモグラフィック質問紙にも回答してもらった。まだ日本のデータのみだが、主観的な社会経済的地位が低いほど、また引っ越し回数が多いほど割引をしやすい(つまり現在の利得を重視しやすい)ことが示唆された。また追加実験では参加者の唾液も収集し、遺伝子多型(例えばDRD2)との関わりも検討するため、分析を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
翻訳作業に手間取り、北米でのデータ収集に着手できなかったものの、2015年度においてその点は十分にカバーできる予定であり、それ以外の点は予定通りである。その一方で、2014年度での研究ではこれまであまり明らかにされてきていなかった主観的な社会経済的地位や引っ越し回数といったマクロ変数との関連について明確に示すことができ、この点について現在論文発表に向けて準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
北米でのデータ収集を迅速に進め、2014年度での研究で示唆された主観的な社会経済的地位や引っ越し回数といったマクロ変数との関連が文化共通にみられる現象なのか、それともその影響の程度に文化差がみられるのか等、検討していく。また、すでにマレーシアでのデータ収集に関しても打ち合わせ済で、2015年度にはデータ収集を開始できる。そのことによって単一文化における複数の言語(例えば英語とマレー語)による影響についても、当初の予定通りに検討していく。
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