公募研究
本研究は、脳の各種疾患によって生じた、外的な指標に対して自己の身体を合わせることの障害(同期障害)について検討することで、自己身体を外的対象に同期させることの神経学的な基盤や、刺激や課題によって生じるパフォーマンスの差異から、同期およびそれに不随する各種の心理学的なメカニズムについて明らかにすることを目的としている。平成26年度は、大脳半球の左右をつなぐ脳梁や前頭葉、頭頂葉病変の患者を対象に、視覚指標(一定間隔の光の点滅)と聴覚指標(一定間隔のクリック音)に対する手指のタッピング課題を実施し、タッピングのずれに関して、反応手の左右差とともに、病変部位の左右差について分析を行った。これまでのところ、脳梁病変1例、右病変4例(前頭葉病変4例)、左病変3例(前頭葉病変2例、頭頂葉病変1例)で検討した。脳梁病変例では、視覚指標に対して利き手での同期障害が確認され、申請者らの過去の先天的に脳梁が欠損した症例における研究結果(Cortex, 2006)と同様の結果が今回の後天的な脳梁損傷例でも生じることが確認され、あらためて視覚・運動同期の神経基盤が右半球にあることが支持された。また前頭葉病変例においては、右病変例で視覚指標に対する同期が困難になることが初めて確認された。右前頭葉病変例における同期困難の特徴としては、特に視覚指標を「主観的に遅く感じる」傾向であることが確認されたが、そのメカニズムはいまだ不明である。これらの結果から、少なくとも視覚指標に対する同期の神経基盤として、右半球の前頭葉が関与する可能性が示唆された。一方で、聴覚指標に対しては右病変・左病変ともに左右差や遅れなどはなかったことからも、視覚指標と聴覚指標に対する同期のメカニズムは異なることが確認された。
2: おおむね順調に進展している
申請者らの同期障害に関する過去の結果は、脳梁無形成(発達障害)を対象とした検討であったが、後天的な脳梁病変例においても同様の結果が生じることが確認され、過去の知見が特殊なものではなく、より一般的なものであることが確認された。また、前頭葉病変を対象とした患者において、視覚指標に関する時間の捉え方そのものが異なることが示唆された点は、大きな収穫であった。これらの理由により平成26年度は概ね順調に進展していると判断した。
引き続き各種病変例に対して課題を実施するとともに、収集したデータにおいて、まだ用いていない分析手法を適用する予定である。またタッピングの他にペーシング課題などを用いて、時間の認知とその障害についてより多角的に検討する予定である。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) 備考 (1件)
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http://ir.c.chuo-u.ac.jp/researcher/thesis/00010730.html